時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
湖のある風景
仕事の関係(一応)で、再び中国に赴いた。杭州である。
3日目の朝方に時間があったのでホテル付近を散策する。現地スタッフの話では、ここから西湖までは一時間程だという。さすがに一時間は歩けない。取り敢えず、行ける所まで行ってみよう、と一人でぶらりと歩き始めた。杭州の町並みは人通りが多い。行き交う人は十人十色である。電動キックボードに乗る人を見かけた。中国では自動車もバイクも電動化が進んでいる。問題は電力をどう供給しているかだが。原発はかの地でもあまり評判はよろしくないだろう。そんなこんなを考えながら、雑然と混み合った大通りを30分ほど歩く。と、大きな湖に出た。西湖だ。何だ、一時間もかからない。
西湖はほとりを歩くのが一番気分がいい。この後、遊覧船に乗る機会があったが、印象深いのは周辺の雰囲気である。朝方は太極拳に励む人がいるというが、この日は見られなかった。
司馬遼太郎は西湖の風とその匂いについて言及していたが、特に匂いは感じられない。だが、この雰囲気はとても落ち着く。写真を撮り、暫くぶらぶらと散策した後、ホテルへと帰還した。

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イメージの黄昏
安倍内閣の支持率がダダ下がりだという。勿論、喜ばしいことには違いない。この社会をこれ程までに破壊し続けた宰相は戦後存在しなかった。だが、この男がやらかしたことについて、どれだけの人が理解しているだろうか。率直に言って、かなり疑わしいと思う。
森友、加計で何か悪いことをやったらしい、稲田が自衛隊について失言したらしい、そして何よりも、安倍を支持しないことが今の流行らしい・・・・・・支持率の低下は、そういった漠然とした認識によるものではないだろうか。
例えば、安倍政権が倒れ、新しい内閣が発足したとする。そのとき、次の総理が安倍と全く同じ政策をとったとしても、高い支持率を得るのではないだろうか。あながち杞憂であるとは思われない。例えば小池百合子のような、今勢いのある人間が総理になった場合のことを考えてみるとよい。
結局のところ、評判を落としているのは「安倍」という看板のイメージであり、彼の行ってきた数多くの悪政に対してでは「ない」と思える。この先安倍政権が倒れたとしても、決して浮かれることは出来ない。

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雑想2017.7.2
都議選、わたしは東京都民ではないのだが、印象を一言でいうと、コレラが減衰してペストが蔓延したというところだ。まぁ、朝テレビをつければ連日都民ファーストの動向と、安倍政権の不祥事(何を今更)のニュースが流れてくるのだから、結果は目に見えていた。結局はイメージの抗争でしかない。
これをもって、遂に民意が目覚めたなどというのはおめでたいと思う。こんな事は今迄にも散々目にしてきた筈だ。

この間に読んだ本
・櫛木理宇「ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり」
相変わらずだが、シリーズの中では平均的な出来栄えか。この手の小説はさらりと早く読めるのはいいが、少し時間を置くと印象に残らなくなってしまうのは困ったものだ。つまり早い話、あまり内容を覚えていない。
・櫛木理宇「侵蝕」
洗脳ホラー小説。出来は決して悪くはない。だが、「一番怖いのは人間だ」という、尤もではあるがありきたりの結末は、流石に拍子抜けの感も否めない。
本作とは話がそれるが、この「一番怖いのは人間だ」というテーマは、一歩間違えると性格の悪いバカが暴れているだけの話にもなりかねない。やはり「一番怖いのは幽霊だ」という方向性は蔑ろにしないほうがいい。
・ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」
いわずと知れた、古典的ホラー小説。ジャンルとしてあまりにも弄られ過ぎたため、中々原点を顧みる機会がないのが殆どだろう。改めて読むと、決して莫迦にできたものではなく、なかなか引き込まれる。19世紀末の小説作品として、もっと広く読まれていい。
・カール・セーガン「コンタクト」
北杜夫がやたら推していた作品。いつか読んでみようと思って延び延びになっていたものである。印象は、左程でもない。決して悪い作品ではないが、凄いとも思わない。主人公達の活躍が、全て無かった事にされていく件りはなかなか厳しく、結末で一応逆転(?)した格好になっているが、カタルシスはあまり感じない。両親との関係の方が、心に響いた。
出張中なので、感想は改めて更新する事としたい。

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この素晴らしき新世界より
地獄の扉が開いた。まさか自分の目の黒いうちに、治安維持法が復活するとは夢にも思わなかった。共謀罪(組織犯罪処罰法改正案)は7月11日に施行されるという。明らかに、濫用することを狙って制定された同法であるが、どこから何をどのように着手していくことになるのか、現段階では予想もできない。ただ遠くない将来に、この社会に手酷い傷を残していくことはうたがいない。
わたしが共謀罪の名を初めて耳にしたのは10年以上前のことである。当初、この法律は「相談罪」と呼ばれていた。相談しただけで罪になるということからそう呼ばれることになったわけだが、この性格は共謀罪と呼ばれるようになってからも何ら変わっていない。
この国の住人がこの法律の危険性に気付く契機は、一切期待できない。仮に莫大な人間が検挙されたとしても「怖い怖い。日本にはこんなにテロリストが住んでいたんだ」、家族、友人が捕まったとしても「テロリストはこんなに身近に潜んでいたのか」と受け止められるだろう。公権力絶対の神話は揺らぐことがない。
私自身、幾度も国会近辺に足を運んだが、反応はきわめて小さく、集まる人々も限定的である。他国ではちょっとした不祥事でも膨大な人数のデモ隊が路上に溢れかえるものだが、この国ではどうだろう。マスメディアの責任は重大とはいえ、それだけで説明できるものではない。

今後、この国の言論・出版情況はどこに向かっていくのか。一例を挙げる。
クジラックスというマンガ家がいる。アダルトコミック界では一定の人気を博している作家で、わたしもその作品はよく知っている。この人物が、警察から呼び出しを受けた。理由は、「性犯罪者が、お前のマンガを読んで真似をした」ということである。
 

県警は今月7日に漫画家を訪ね、作品内容が模倣されないような配慮と、作中の行為が犯罪に当たると注意喚起を促すことなどを要請した。漫画家は「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承したという。県警幹部は「表現の自由との兼ね合いもあり難しいが、社会に与える影響を考慮した。同様のケースがあれば今後も申し入れを検討する」としている。(毎日新聞)

断筆宣言めいた事柄については作家自身によって否認されているようだが、これは決して毎日新聞の「飛ばし」と捉えるべきではない。警察は断筆強要も辞さないことを意識して今回の一件をメディアに公表したと考えるべきなのだ。「こういうものはもう描かせない」という警察権力の意思がそこに込められているのである。後段に「公権力が作品の内容に介入(申し入れ)することは当然」と謳われていることからも、それは決して杞憂ではない。
今回の事態を「朝憲紊乱の惧れがあるものを取り締まる」と置き換えれば、論理構造は明白だろう。クジラックスの一件は共謀罪の成立と決して無関係ではなく、この社会が監視・治安国家化する過程において、露骨に示されたひとつの証左と捉えるべきなのである。

我々に一体何が出来るのか?偽りの希望は提示したくない。出来ることなど何もないのかもしれない。このブログもいつまで続けられるか判らない。
わたしの敬愛する石川淳の描く主人公達は、どん底の状態において、その果てしない絶望を力の湧く源泉として提示した。「黄金傳説」はその典型である。わたし達がそのような「生」を力強く選択できるかどうかはわからないが、今回の敗北を受けとめながら、まずは生きなくてはならない。
生きることである。

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読書録補遺
先日の読書録で、抜けがあったのに気が付いた。
書物の題名は「毒ガス帯」で、作者はコナン・ドイル。コカイン中毒の探偵が活躍する話で有名な作家である。
本作はチャレンジャー教授が活躍する話で、「失われた世界」の系譜に属する。地球が謎の毒ガス帯に覆われ、人類滅亡の危機に陥るというもの。死屍累々のロンドンの様子は中々迫力があり、小松左京の「復活の日」を連想させた。勿論小松はこの作品を読んでいた筈である。
シリーズ物のお約束とはいえ、最終的にハッピーエンドになってしまうのが拍子抜け。皆殺しにしてはシリーズが終ってしまうので致し方ないのではあるが。
尚、本書には併録作が二本あるが、「地球の悲鳴」は私のお気に入り。地球に鉄槌を打ち込んで悲鳴を上げさせるというバカバカしいアイディアであるが、身も蓋も無いべらぼうさが心地よい。西尾維新の「悲鳴伝」とは違い、こちらは誰も死ぬことはないので、念の為。
ドイルの創作はSFや歴史物も数多いので、もっと読まれてしかるべきである。作品が絶版になっているのが残念なところだ。

ちょっと必要があって、山海関事件のことを調べていた。1933年のこと、京奉線山海関駅付近での爆破事件を機に、支那駐屯軍山海関守備隊と国民革命軍第九旅の間に勃発した戦闘である(戦闘には関東軍、帝国海軍も続いて参加した)。今日では落合甚九郎少佐の指揮による謀略事件として大方の見解は落ち着いている。だが、日本はこれを機に熱河侵攻、そしてリットン報告書への決議を受け、国際連盟脱退へと雪崩れ込むこととなる・・・
そういえば、共謀罪に対する国連からの書簡に嚙み付いていた官房長官がいたな。

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読書録 2017.5.20
共謀罪の強行採決で胸糞が悪い。
何故国会周辺に集まるのか?みんな黙ってられないからだ。「冗談じゃない」その思いが国会、そして各地の集会に足を向けさせた。「戦略的にー」だの、「効果を期待できる方法論ガー」などという高尚な寝言を語る連中は、能書きをたれる前に、人の気持ちに対する想像力を身につけるべきである。

この間読んだ本

・笠井潔「青銅の悲劇」
正直、ミステリーとしては精彩を欠く。だが、笠井の探偵小説論、そして学生運動の総括がちりばめられていて、充分読み応えはある。

・ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」
昔、小林秀雄が江戸川乱歩との対談でゴチャゴチャ文句を言っていたが、衒学の迷宮はやはり魅力的だ。小栗蟲太郎へと至る系譜の原型がここにある。

・綾辻行人「Another episode S」
アニメ化されたAnotherの外伝。ヒロインの鳴がキャラクターとして確立しているため、魅力的な作品とはなっているが、彼女がいなかったらつまらないものになったかもしれない。
・綾辻行人「人形館の殺人」
凡作。この手の叙述トリックはもう飽きた。ミステリーの鉄則で、一人称の主人公は・・・

・ピエール・カミ「ルーフォック・オルメスの冒険」
カミである。カミュではない。シャーロック・ホームズのパロディ作。トンチンカンな探偵がシベ超の水野晴郎以上に妙ちきりんな推理を展開し、めでたく事件を解決していくというもの。バカバカしくも、実に楽しい作品。
・ピエール・カミ「機械探偵クリク・ロボット」
同じ作者によるSF探偵物。今度はロボットが事件を解決する。この人の作風はボリス・ヴィアンの作品にも通じるものがあり、もっと評価されていい。近いうちに、ツン読だった「エッフェル塔の潜水夫」を読もうと思う。

・笹本祐一「カーニバル・ナイト」
・笹本祐一「ラスト・レター」
妖精作戦シリーズの3、4巻。今もって未読のままだったので、勢いで読んだ。ほろ苦い青春SF

・山本弘「MM9」
一般読者向けの、怪獣SF小説。なかなか面白く、ドラマ化もされているらしいがそちらは未見。続編があるのだが、少し方向性が変わるので保留。

・桜庭一樹「GOSICK PINK」
アニメにもなった「GOSICK」の外伝(作者による二次創作と言ってもよい)。RED、BLUEに続く最新作である。大戦中の仲間の死をめぐるトラブルがテーマだが、あまりミステリー色は強くない。過去にシリーズ本編のイラストを担当していた武田日向が急逝したことから、暫くツン読になっていた同書に手を出してみた次第である。

・莫言「赤い高粱」
舞台は語り部の「私」が生まれるずっと前。抗日戦と祖母の嫁入りの話が平行して語られる。汚物などの描写を露骨に行うのは中南米文学(遡ればラブレーだが)の影響だろうか。正直、この辺りの才覚はマルケスのほうがずっと優れている。
祖母の話は状況を掴むのに手間取るせいか、ややまだるっこしい。後半、祖母が自立するあたりから急に話が進み、読みやすくなるのだが。


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ペストかコレラか
フランスの選挙はエマニュエル・マクロンの勝利に終った。取り敢えずFN代表マリーヌ・ル・ペンの勝利は免れたが、そうそう喜んでもいられない。銀行屋とレイシストの争いに、大義などあるべくもない。ペストかコレラか(peste ou choléra)の選択と言われる所以である。
ボイコットはそれ自体、意思表示のメッセージ足りえない。白紙委任として権力者にいいように扱われるのはどこの国でも同じだろう。これを機に、わが国に「選挙ボイコットの大義」を密輸しようとする間抜けが現れるだろうが、莫迦も休み休みにして欲しい。ボイコットして冷笑に走るような国とは、政治的力関係のあり方が全く違うのだ。ヨコのものをタテにすればいいという問題ではない。
意思表示のメッセージがままならない時はどうするか?街頭に出るのである。選挙ボイコットをしたとしても、それで終らせない。反マクロンを掲げた、左派による大規模なデモはその端的な表われであった。このデモにはルペンを倒すためにマクロンに投票した人も、駆けつけたという。正しい。まず第一の敵を倒し、次に残った敵を討つ。それくらいの行動力はあってしかるべきだ。
民主主義とは選挙権つきの奴隷制ではない。選挙という手段を、民主主義社会の目的であるかのように錯認する思考法は、捨てるべきだ。民衆意思を実現するために何が必要か、それが常に問われている。

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戦争の亡霊~キングコング 髑髏島の巨神
まず、本作のテーマは「戦争」である。
冒頭の場面は大戦末期。太平洋上の孤島・髑髏島に不時着した日米両兵士が、相手を殺害しようと相争う。そこへキングコングのとてつもない巨躯が現れる。呆然として戦闘を中断する二人。ここのコングは争いの調停者と考えてよい。
ベトナム戦争末期を舞台にした本編では、髑髏島への激しい空爆が展開される。そこで激怒したコングが軍用ヘリを次々と撃墜する。キングコングは、空爆を受けた民衆の怒りそのものの具現化として表象される。カムイ伝の山丈、西遊妖猿伝の無支奇などを重ね合わせてもよい。
米軍兵士たちは冒頭で生き延びた老兵士と合流し、脱出を図る。老兵士は日本兵(故人)と和解し、義兄弟の契りを結んでいる。この二人の関係を同性愛の暗示と捉えても差し支えない。少なくともホモソーシャリティーは存在する。老兵士はコングは島の守り神であると説明し、これと争うことに反対する。
だが、隊長はコングへの復讐の念に取り憑かれる。彼にとってこれは成し遂げ得なかった、ベトナム戦争のけじめなのだ。戦争の呪縛から解き放たれた大戦期の軍人と、いまだに戦争の妄執に囚われ続けるベトナム戦争の軍人が対比的に描かれているのが興味深い。
仲間たちの造反と、島の怪物・スカルクローラーの登場により、隊長の目論見はあと一歩のところで断念を余儀なくされる。物語の終盤はこのスカルクローラーとコングの戦い、それに協力する人間達の姿に当てられる。この一連の場面はダイナミックな戦闘が続き、英雄的自己犠牲に対する辛辣な批判も描かれていて実に見事である。
戦いは自然神たるコングの勝利に終わり、島の平和は無事に救われる。勝利したコングは人間達を見送るように佇み、激しく咆哮する。
ところで、島の怪物・スカルクローラーとは何なのだろうか。わたしはこれを戦争の暗喩と捉えたい。この怪物は、島の全生物の生存をおびやかす敵として描かれる。暴れまわり、暴威をふるい、あらゆる生物を喰らい尽くす。待ち受けているのは絶対的な死と破壊そのものだ。そして、その最終形態が54年版「ゴジラ」であることは言うまでもないだろう。
本作は怪獣映画の姿を借りながら、戦争について色々考察を巡らす事を可能とする。実に愉快な作品だった。

※ 余談だが、本作は一部のファンによって「けものフレンズ」と屢々対比され、「実写版けものフレンズ」とさえ呼称されている。だがこれは決して不当な悪ふざけではない。スカルクローラーをセルリアンとすれば、ほぼ内容は一致する。島(パーク)を脅かす圧倒的な負の力と、これに立ち向かうキングコング(フレンズ)との戦いが、この作品の骨子である。

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日本から少し離れて~大陸編 (4)
このブログで数度にわたって掲載してきた中国訪問記であるが、切りがなくなってきたので、今回で終了とする。駆け足であるが、後程加筆することもあるだろう。一旦まとめて書き上げてしまう。

(承前)
一旦ホテルにチェックイン、休憩し、食事をとった後、鳴沙山に向かう。よく知られた観光地なので、ご存知の方も多いだろう。わたし達が砂漠と呼んでイメージする通りの風景が広がっている。途轍もない砂の大地だ。果てしなく広がる風景に、呆然とする。唐の時代は、この砂漠の彼方から突厥の軍がやってきたのだろうか。

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ここで駱駝に乗った。両足を輪に引っ掛けて、よっと立ち上がるとなかなか背が高い。時刻は既に夕方をまわっているが、敦煌の夜は遅く、まだまだ日中の明るさである。砂漠に日は落ちて・・・よくよく見るとこの駱駝、なかなか可愛らしい。降りた後、思わず首筋を抱きしめた。ちょっと得意げに澄ましている様子だった。

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夜がとっぷりと暮れた頃、夜市をまわる。掏摸が多いので気をつけるようにと警告される。お土産など様々で高価なものから安物まで多様であり、目移りしてしまう。今日は見るだけに収めようと、皆でシシカバブを食べる。胃がボロボロなのだが、無理して食べる。通訳のJさんは桜桃を大量に買わされていた。どうするんだ、これ。

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夜市を散々まわった後、蘭州ラーメンを食べる。これも無理して食す。味は・・・やや微妙。芥子ペーストのようなものがあったので、それで味を調整する模様だった。尤も、わたしの体調ではそれも叶わないのだが。

翌日。朝食はヨーグルトで済ます。心なしか、体調が大分違う気がする。博物館で観光案内のビデオを観た後、莫こう窟へ向かう。山の斜面にアリの巣のような無数の穴が開いている。世界屈指の仏教美術の拠点である。窖の中で懐中電灯を照らし、これでもかと言わんばかりの作品群にとにかく圧倒された。

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有名な反弾琵琶はそれ程目立つものではなく、ついつい見過ごしてしまいそうになるが、これに目をつけた人間は見る目がある。いいセンスをしているものだと感心した。ガイドが或る鳥の絵を指して、これはカショービンガですと解説している。カショービンガ?ああ、迦陵頻伽か。僭越であるが、訂正しておいた。
再び博物館。展示物を見学する。張騫の存在が本国ではかなり大きな扱いを受けているのが印象的だった。わが国でも世界史の教科書に名前が出るが、当地では偉大な英雄である。

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夜は演劇場で舞踏を観る。正直あまり関心が無かったので、渋々付き従ったのであるが、これがなかなかの収穫だった。ストーリーは昔話を基にしたもので、典型的な勧善懲悪物なのだが、衣装と舞が洗練されていてしばし幻惑された。

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翌日はヤルダン地質公園に向かった。荒れ果てた砂漠の中を車で進む。途中に見える草は、名高い駱駝草か。駱駝しか食べないという、鋭い棘のある植物。

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昼頃、公園に到着。何だこの岩は。砂地が削られ、風化していった果てに残された岩石群である。まさに奇岩と呼ぶにふさわしい。そういえば「火の鳥」で、人間がこんな岩に見えるという描写があった。あんな妙ちきりんな形状である。ここでは観光バスで、園内をグルグル観て回った(とにかく広いのである)。三蔵法師玄奘をはじめ、古の隊商もこんな岩を目撃していたのか。

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昼食の後は東に戻り、玉門関に向かう。ガイドと西遊記をめぐり、熱っぽく語ってしまった。偉そうに、ひどいもんだね。今思えば汗顔の至りである。
玉門関といえば河西回廊の最西端。西域への交通路。ここから西には遥か彼方まで砂と岩ばかりで何も無い。だだっ広い砂と礫、あるいは先程のヤルダン地形のような風景が続くわけだ。まさに最果ての地に設けられた関所である。諸星大二郎の西遊妖猿伝では玄奘がここを迂回して莫賀延磧に足を踏み入れる。当時、突厥との緊張関係から国境が閉ざされていた為である。漫画に描かれた風景と重ね合わせ、しばし物思いに耽った。正直、諸星大二郎と、漢文、世界史の記憶があれば、充分色々語れてしまうものである。

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夜、再び夜市に向かい、土産品などを買う。木彫りのプレートやら装飾品やら雑多な品物が色々並んでいる。ふと、赤い手帳のようなものが目に留まった。毛沢東語録だ。日本円で四、五千円くらいか。買っていく程酔狂でもないが、手にとってパラパラと眺めてみる。と、乱丁に気が付いた。途中から頁が上下さかさまになっている。店のオバちゃんにそれを指摘すると、大爆笑。そのまま二人でしばし笑っていた。と、このオバちゃん、そのまま乱丁の語録を店頭に並べ直した。やるもんだねえ、この庶民的バイタリティは憎めない。
翌日、北京経由で羽田に向かうことになった。なかなか愉快な体験をしたこの地ともいよいよお別れである。朝方、しばしホテル周辺を散歩した。ホテル前を流れる大きな川は、冬になると干上がってしまうのだという。結構広い川なのだが、日本では想像もつかない。実にスケールの大きな話だ。さらに足を延ばすと、市役所の前で体操が行われていた。ラジオ体操みたいなものだろう。敦煌市の中心には大きな反弾琵琶の像があるのだが、この像ともいよいよお別れか。敦煌のガイドにはお世話になった。深謝したい。

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・・・こう綺麗に終わればいいのだが、北京空港で唖然とした。外の風景が黄色い。何だこれは。飛行機を降りるときは嫌な気分がした。この空気は吸いたくない。それにしても北京の税関は時間が掛かりすぎる。とんでもない行列だった。しかも空港がやたら広く、迷いそうになる。冷汗三斗の思いで何とか飛行機に乗り、何とか帰国の途に着いた次第である。

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プロフィール

のわーる

Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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