時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
太平洋片恋航路
田中英光「オリンポスの果実」漸く読了。今さら押しも押されぬ古典的名作の感想を書き述べるのもばからしいのだが、取り敢えず印象を晒しておく。

ストーリーは周知の通り。1932年のロサンゼルス・オリンピックの代表選手が、道中一緒になった女性選手に一方的な片思いを書き連ねる話。未見だが、遠い過去に「名作文学アニメ」の枠でテレビ放映されたこともあった筈だ。
主人公は終始無くし物ばかりするオッチョコチョイだが、とりわけ異性を前にすると、子供のまま大人になってしまったような感があり、ウブな事この上ない。まあ、他人事ではないのだか…
結局、片思いは実ることなく、帰国するまで「あなたが好きだ、あなたが好きだ」の一方的な独白で終わるのだが、告白文学としての印象はあまりない。むしろ、エドウィン・ミュアーの「スコットランド紀行」を読んだ時の事を思い出した。芭蕉の「奥の細道」でもいい。太平洋横断を通じての、「魂の遍歴」のようなものに惹かれるものがあった。この作品は、片思いの告白という形式をとった、一種の紀行文学としても評価されていいと思う。

田中英光は太宰治の弟子。太宰の没後、その墓前にて自殺を遂げたのは有名な話である。師の太宰と共に、島尾敏雄からは徹底的に忌避され、三島由紀夫からは糞味噌にこき下ろされたこともよく知られている。
そうムキにならなくても、と思うのだが、どうしても好き嫌いは表れるのかもしれない。ここで無頼派文学を論評する余裕はないのだが、この時期の作家達の作品群はやはりずば抜けている、というのが私の印象である。バカにしてやり過ごすの愚は避けたいものだ。

hidemitsu
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この記事に対するコメント
紀行文学!そうか!
わ~い!お読みになられてのご感想、とっても刺激的でした。「紀行文学」、あっ、そうか!そうだ!お船の上の選手の皆さんの描写のくだり…スポーツ紀行文で、それに…何かまさしく紀行文学だあ!
再読、楽しみです。「紀行」を頭に入れて読み直すのが新しい楽しみになりました。わくわく。他のご紹介の紀行文学作品も読んでみたくなりました。
なお島尾敏雄…そうなのですか…何かわかるような?妙に若い時に一発で真髄ついちゃった田中英光だから、かしら?
三島は…ソリャ嫌いそうな?だって、マジもんの筋肉男子だしぃ(汗)。あんなにも「つくりもの」めいたところが皆無だと、技巧や思想では肉体の純情に太刀打ち出来ない?っとか思っちゃったのかしらん…邪推も楽しくなっちゃうから困ったものです。
えぇ!馬鹿にしたものではないと思います。少なくとも「オリンポスの果実」を馬鹿にするやつ、自分は好きくないっス!(微笑)
【2012/08/02 01:14】 URL | ふぶら #- [ 編集]

Re: 紀行文学!そうか!
>島尾敏雄
あの人は「死の棘」に見られるように、家庭生活が破綻しかけていた事情があるので、太宰-田中路線の文学系統はタブーだったようです。

>「児童」の扱い
文学作品では多いですね。日本文学でざっと思いつくだけでも、椎名麟三「懲役人の告発」の福子、埴谷雄高「死霊」の処女の淫売婦・ねんね、石川淳の「喜寿童女」・・・
勿論、規制が好きな人たちは文学作品なんて読みません。
【2012/08/03 00:43】 URL | のわーる #- [ 編集]

すてきなタイトル(*^_^*)
しまった。ご紹介の日本文学をちっとも読んでないので焦って右往左往です(汗)。あたくし規制派っぽい?(おろおろ)
島尾敏雄の「死の棘」…とても読むのがつらかった記憶があります。「その後」の短編集も読んだ記憶がありますが…やはり「当然の様に耐えさせられちゃった奥さんが痛ましい…」って思ってしまう小説って、なんと言うか、読みづらいです…ミホさん…
ところで!
「太平洋片恋紀行」。このタイトル、すっごく良いですね!「片恋」の語の持つロマンチックなところと、「太平洋」の語の雄大な感じと、「紀行」の語の平明な淡彩さがとっても…素敵な組み合わせだと思います(にこ)。
【2012/08/03 01:33】 URL | ふぶら #- [ 編集]

再読(*^_^*)
結局「オリンポスの果実」再読しちゃいました。ほんとは今日は始発で青春18で大阪行ってサッカー観戦とか画策したのですが、ちょっと連日の残業が(苦笑)。…空いた時間で一気に読了~
…やっぱ、いいなぁ…
「紀行文学」を頭に入れて読むと又、面白さが違いました。当たり前の事ですが、当時はお船で米国に行く、その途上の船旅の今とは違う時間の流れかたが片恋を育むに相応しい感じがします。外国人客との出会い。寄港するハワイの描写の晴れやかさ途方もなさ、米国のあれこれ…
それにしてもこの主人公、本当に落とし物無くし物ばかりしてますねぇ。五輪代表バッヂ無くしたからって人の拝借するなョオイ(微笑)
【2012/08/04 23:07】 URL | ふぶら #- [ 編集]


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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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