時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
三島映画おぼえがき
「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(監督:若松孝二 脚本:掛川正幸・若松孝二)の感想を記す。なかなか面白くできた作品で、出来映えは悪くない。中央線が新型車両であることなど、いくつかの点が気になったとしても、である。

ただ、これが「実録・三島」かといわれると、どうしても戸惑いがある。作品を通して、もの書きとしての三島に少しでも触れてきたことのある人なら、だれでも違和感を抱くだろう。だが、三島という固有名詞を外した、ひとつの精神史としてはおそらく正確なのだと思える。尚、実質的な主人公は満島慎之介演ずる森田必勝である。
私は右翼にはどうしても馴染めないらしく、何とか登場人物に感情移入しようとしても、どうしても入り込めないものがあった。どこか、遠くの世界の人たちの話に見えてしまうのである。この点は最後まで払拭できなかったことはお断りしておく。
ところで、脱退者をデマゴギーで陥れようとする精神性は、右翼にも存在するらしい。この種の悪しきメンタリティは左翼とも共通する。だが、これは「両極端は一致する」などという俗説とは関係がない。「組織」というものに普遍的に見られる病理なのだ。

この映画で最も心に響く場面は森田が三島に手紙を渡す場面だろう。「三島先生のために、自分はいつでも命を捨てます」、この場面は圧巻である。ここから、この映画を衆道映画として捉えてもいいと思う。勿論性的な要素は一切ないのだが、精神的な衆道関係はしっかり描かれている。この辺りはBLに親しんだ腐女子の意見も聞いてみたい。

また、全共闘との討論シーンは異様に生々しい。何故?と思うほど雰囲気がよく出ている。ただ、やたらわかりにくい言い回しではあるものの、「三島にとって天皇が幻想上の存在であり、行動によってそれを埋め合わせようとしても、やがて破綻する」という指摘は正当であると思えた。
三島の小説に触れてきた人なら周知のことであるが、彼の作品は徹底的に観念劇である。観念性を政治運動のリアリズムに導入しようとする時、それは決定的に現実と齟齬をきたす。結果、必然的に敗北することとなる。これは自明の理である。
象徴としての日本刀への異様な執着もそのひとつといえる。いうまでも無く、軍事のリアリティとは、完全に無縁である。あまり心理分析を弄しても仕方が無いのだが、これは一種のファリック・ナルシシズムと捉えてもよい。

尚、本作で描かれる「死の美学」のようなものには一切共感しない。「死」が絶対的な事象である以上、そこに価値的な優劣など存在しようがない。三島の唱える美意識は、所詮観念上の操作でしかない。切腹しようと畳の上で死のうとそれは等価である。個人的な印象を問われれば、むしろつまらない死に方だったと答える他ない。

ジャン・コクトーは自作の「山師トマ」について、「お馬さんごっこを続けているうちに馬になってしまった者の悲劇である」と述べていた。三島の場合もそれに近いような気がする。だが、三島がコクトーを愛読したことはよく知られており、この辺りも充分に自覚的であったと思われる。澁澤龍彦に「近頃、兵隊ごっこはいかがですか」と問われて、「ラクロのように軍務に励んでおります」と冗談で返す余裕を彼は有していた(「危険な関係」の作者コデルロス・ド・ラクロは本職が軍人であった)。本作において、「仕方が無かったんだ」と呟く場面にどこか醒めた三島の意識が描かれていた。愚行であることは本人が百も承知だったのである。「いくら死を賭しても愚劣な思想は愚劣なだけだ」という井上光晴の指摘を思い出してもよい。

冒頭でも述べたように、最後まで感情移入できない部分が残った作品だった。ドラマとしては面白く作っているだけに、奇妙な感覚である。いずれ再見して色々考えてみたいと思えた。
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この記事に対するコメント
ふふふ。
三島の映画。6月末決算でバタバタで行けない…。三島本人が出てくる映画は「黒蜥蜴」と「からっ風野郎」観ました。後者はトンデモないもん見たナと…あの「台詞棒読み」にはズッコけたぁ…主演するの誰か止めなかったのかしら(^_^;)
ラクロの「危険な関係」を(多分)下敷きにして、とっても軽い楽しい読み物にした「レター教室」を読んで職場の同僚と盛り上がってます。(汗)「三島何であんなことしちゃったのかしら?ラノベ風の作品は本当に楽しいのにアァ勿体ない」…
真面目な三島のファンには怒られそーなので、女子社員二名月末のバタバタの合間をぬって密かに往復書簡感想文大会です(笑)
【2012/06/20 19:13】 URL | ふぶら #- [ 編集]

初冬の死
>あの「台詞棒読み」
そうなんですよ~。若尾文子との競演が痛々しかったです。増村保造が徹底的にシゴいたと言いますが、シゴく前はどうだったのでしょう。
ただ、前にも書きましたが、監督作「憂國」は面白かったです。勿論、テーマはエロスですが。

>ラノベ風の作品
三島はサービス精神が旺盛でしたからね。夏子の冒険、女神、複雑な彼、不道徳教育講座など、結構多いです。お神輿を担いだり、映画に出たり、レコードを出したり、で、あの最期。終生、どこか見られることを意識していたような気もします。
ちなみに、私の好きな作品は「午後の曳航」です。
【2012/06/20 22:43】 URL | のわーる #- [ 編集]

まぁ!あの作品を?(笑)
まぁ!あの「からっ風野郎」…本当に誰か止めてあげてと。嘘ォ?!「しごいた」後であれ?!(悶絶w)
確かにサービス精神のかたまりで且つ「見られる」意識は強かったのかも…
「午後の曳航」は読んだ記憶があるのですがイマイチびんときませんでした。真面目な三島は苦手らしい自分が悲しいです…自分はモォ!「夏子の冒険」一択(笑)。
今日同僚から「複雑な彼」を借りました。二人して「今もし三島が存命だったら覆面でラノベ書いてたりして」「うわっ読みたい!」「萌えキャラの表紙!」「アニメ化!」「コミケでコスプレする子が出る!」「…こっそり見に行く三島…」「…でも会場混雑でへたばる三島…」「…でも来年は自分もコスプレしようと決意する三島…」。ああ女子の妄想は不真面目でかしましいばかりであります(汗)
【2012/06/21 00:56】 URL | ふぶら #- [ 編集]


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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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