時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
気持ち悪い・・・
「先生を流産させる会」のレビューを記そうと思ったが、あれやこれや無駄に思考が膨らんでいったので、取り敢えず思いついたことを書き記しておく。
本作のストーリーについては多くを語る必要はないだろう。少女達が妊娠した女教師に対して嫌悪感を抱き、これを流産させてしまおうとする話である。
少女達は、妊娠を「気持ち悪い」と考える。何故気持ち悪いのか、勿論、女性性や、生命の神秘への畏れということも考えられる。こうした「おそれ」の感覚は、古代宗教から、民間信仰に至るまであらゆる場所に反映されている。だが本作の少女達において、この嫌悪感は寧ろ人間が「生き物」であるということに起因するだろう。
人間は捕食し、性交し、排泄し、自慰し、繁殖を行う存在である。これは当たり前の事柄であり、誰もが差し当たりは了解して生きている。だが、ふとしたきっかけでその始原的なおぞましさに触れてしまう契機がある。これこそ、サルトルが「嘔吐」で描き出したものである。
彼女達が妊娠を漠然と気持ち悪いと考えたのは、人間のこうした「生き物」としての属性に触れてしまったからである。だが、それだけではない。少女たちは懐胎した教師に、やがて訪れる自らの運命を見出すのである。この焦燥感は、三島由紀夫の「午後の曳航」の少年達と酷似する。いわば、「神の領域」から人間界へと堕落する事への恐怖である。人間は神の似姿ではなく、羽化登仙するわけでもない。猿の兄弟分なのだ。「この世界には結局何も起こらないのかも知れぬ!」というわけである。
人間は性的であってはならず、肉体としての存在であってはならない、この種の肉体憎悪は中世のオドン・ド・クリュニーにおいて最高潮に達する。この偏執的な思想家によれば、肉体の美は皮膚に属するものであり、その内に潜む本質は汚穢そのものである、「あの女性の優美さは、実は舌苔や、血や、膿や、胆汁である。いったいどうして我々は糞袋そのものを腕に抱きしめたいと望むことができるのか」。無論、禁欲主義者の馬鹿馬鹿しい妄想だ。肉体=糞袋と認識するからではない。肉体=糞袋=下賎とする図式が馬鹿馬鹿しいのだ。逆に言えば、下賎であって何が悪い。だが、馬鹿馬鹿しいと割り切れないのが性徴を迎えた思春期の業のようなものでもある。
「女は気持ち悪いものなの」と本作の女教師は説く。勿論これは妊娠という事柄をさすのだが、肉体を持っている以上、人間は気持ち悪い。もっといえば、そうした気持ち悪さが無ければ人間とは言いがたい。
これを「他人が気持ち悪い」とすれば「エヴァンゲリオン」のテーマのひとつになると思う。だが、収拾が付かなくなるので今回は差し控えておこう。
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この記事に対するコメント
恐れかー。
なんつーか、アタシは性教育の問題な気がするよ。
昔ながらの日本は割と性に対して暗いイメージがあって
それに反発するべく今の性文化がある気がして
今の子供達はどう対応していいか
今の大人達はどう対応していいか
分からないんじゃないかな。


愛があって結婚して子供産めばセックスは美しい
愛もなく結婚もせず子供が出来たらふしだらだ

そういった風潮も関係している気がするよ。


セックスはコミュニケーションの一環で
ただ普通のコミュニケーションと違うのは子供という産物がついてくると。
子供が出来たら、それに対しての責任が生じてしまう事。

ただそれだけである事をきちんと教えるべきだと、アタシは思う。


でも、本当はそれは学校に任せる物ではなくて
家庭で教えて行くもんじゃないかなと思う。
「性」も「生」も。
【2012/05/29 01:35】 URL | ないと改めneco #- [ 編集]

人間なんて
「そうだったのか、だから俺たちは生まれてきたんだよな」って、普通に言えなくなってきているのかも。 
付き合うとしたら「処女」がいいって、男子が増加ってホントかね? 

保守化しているのか、潔癖症なのかは知りませんが。

以前のコメントでnecoさんお子さんがいらっしゃるようだけど、家庭で教えるべきって言えるnecoさんって素敵な方だと思います。 
俺なんか、40代独身のオッサンだから、この手の問題になると、何を話しても信用してもらえません。あぁ情けない。 


のわーるさん知っていると思いますが、あのカマヤンさん、奥さん妊娠中だそうですね。いい話だなぁ。
【2012/05/30 03:09】 URL | ダムド #- [ 編集]

処女懐胎
>necoさん
性教育に関する丁寧な考察、ありがとうございます。何というか、付け加えるところが殆どない・・・
映画の方は人によって斬新な解釈が色々なされているようですね。ちなみにグロい描写はありませんのでご安心を。フランス映画の怪作「屋敷女」はモロに妊婦スプラッターでしたが・・・

>ダムドさん
思春期は「難しい年頃」と言われるように、色々と屈折する時期ですからね。
あと、保守的な貞潔思想と、処女崇拝とはまた別物だと思います。処女のイマージュやウェヌス原型は、多くの芸術家達にとって、想像/創造力の源泉となってきました。わが国では澁澤龍彦がその筆頭に挙げられるでしょう。
アンケートの設問にも問題がありそうです。「憧れと現実の恋愛は別物」という意見が塗りつぶされているからです。大体、現実に恋愛をすれば相手が処女かどうかなんてどうでもいい話になるんじゃないのかな。「キモい奴らがいる」と言うための、ためにするアンケートとも言えそうですね。
【2012/05/30 23:36】 URL | のわーる #- [ 編集]

反省猿
そうですよね。 


ナボコフやルイス・キャロルにしたって同じ事がいえますよね。 


創作物の原点でもある訳だし、反省せねば。
【2012/06/01 02:15】 URL | ダムド #- [ 編集]


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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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