時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
人身の自由について(2)
前の記事の続き。文中に「資料」とあるのだが、データが見つからないので、掲載できなかった。まあ、徒に長くなっても仕方がないし、文意に影響はない筈だ。

(承前)
 次に、第32条「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」。私たちは当たり前のように考えていますが、これは裁判所以外の機関、つまり行政や警察などによって裁判を受けることはないということです。三権分立と言いますが、行政権や、警察が行使する捜査権に対する批判的機能を、裁判所に期待しているわけです。
 裁判所のチェック機能としては、第33条と第35条でも、「逮捕と捜査には裁判官の令状が必要」という、いわゆる「令状主義」が定められています。逮捕や捜査は被疑者に大きな負担を強いるからです。警察権は「必要な最少限度においてだけ発動できる」という原則があります。これを警察比例の原則と呼びます。ただ現在、残念ながら、裁判所のチェック機能は十分に発揮されているとは言えません。警察の申請があれば、たいていの場合、裁判所は令状を発行してしまうのが実情です。これは、別件逮捕などの問題にかかわってきます。
 別件逮捕といいますのは、証拠がないときに、微罪で裁判所から令状を出してもらって身柄を拘束し、留置場つまり「代用監獄」に留置して自白を強要するわけです。第38条には「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と謳ってありますが、わが国では自白偏重主義が今も根強く残っています。
 かつて警察官僚で、いまは死刑反対論者である亀井静香氏は、「被疑者が勾留、取り調べを受けると、異常心理に陥ることが非常に多い」と言っています。亀井氏が立ち会った取り調べでも、拘禁性ノイローゼにかかって、取調官とのあいだで王様と奴隷のような心理状態になってしまった例があるといいます。このようにして、ありもしない犯行の自白がおこなわれ、数々の冤罪事件がしばしば生じているのです。
別件逮捕と代用監獄という制度が、こうした冤罪の温床になっているということで、国際的に厳しい批判を受けていますが、なかなかこれが解決されないという現状があります。
 第36条は、後程詳述します。第37条は「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」という規定です。近代以降の司法制度には、無罪推定の原則というものがあります。これはフランスの人権宣言に由来しますが、「何人も有罪の判決を受けるまでは、無罪の推定を受ける」というものです。
これはとくに日本の社会には浸透していないのです。マスコミが、何かあるとすぐに有罪推定の報道をおこなう。視聴率優先が原因なのですが、こうした報道に私たちは少なくとも同調するべきでない。まさに私たちの民度が問われているのです。
現行犯のように、犯人であることが明らかであっても、「弁護の余地のない犯罪は存在しない」というのが原則です。これを忘れたとき、私たちの社会は、中世以前の社会へ逆戻りしてしまいます。裁判所というのは、検察や被害者の応援団でも、また、被告人の応援団でもありません。このいずれにも肩入れすることなく、法と自らの良心に従って公平な判断を下す、そうした役割が求められています。
誤解されているのですが、「迅速な裁判」というのは、早く吊るしてしまえとか、そういう意味ではありません。資料に判例をいくつか集めました。高田事件の裁判では、審理の途中で別の事件の審理をおこなうことになったため、15年以上も中断したのです。弁護側は審理の中止を要求し、「審理を打ち切るべきである」という画期的な判決が出ました。15年も未決の状態でいるというのは明らかに異常事態なので、第37条に基づいて、こうした事態では、審理を打ち切るという非常手段をとれると判例で示されました。
また、今のケースと逆になるのですが、覚えていらっしゃるかどうか、昔、東アジア反日武装戦線というグループがあり、三菱重工をはじめとする連続企業爆破事件を引き起こしました。この裁判では、裁判長が審理を迅速にするために、月4回の全日公判を指定しました。弁護士としては、週に1回の公判では被疑者との打ち合わせも十分にできませんし、他の事件の受任も不可能になるということで、全員が辞任し、裁判は空転しました。結局、裁判長が公判期日のスケジュールを撤回し、事態はようやく解決を見たのです。
しかし、これを契機に、弁護人抜きで裁判を進めることを可能にしようという「弁護人抜き法案」が国会に提出されたのです。日弁連などが強硬に反対して廃案になりましたが、当然です。被告人の権利として、その利益を守るために迅速化が謳われているのですから。(続く)

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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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