時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
見出された扉
ヴォンダ・マッキンタイア「脱出を待つ者」の感想を記す。今は亡きサンリオSF文庫より刊行された一冊である。古本屋で見かけて以来、何となく気になっていた。結局、購入はせず、図書館でリクエストすることとなった。
「ここではないどこかを思うこと」というのは宮台真司がよく口にするテーマである。あるいは中島みゆきの歌を思い出してもよいが、別に特別な着想ではない。「この社会はイヤだ、もっといい世界で生きていたい」というのはこの社会に住むものであれば、だれでもそうした夢想を抱く筈である。
本作の舞台は未来社会。人類が壊滅的に荒廃した地球を見捨て、宇宙に文明圏を築いている世界である。主人公は細々と生き残った地球人の一人。いつか頽廃した地球から脱出しようと夢見ている。そこへ、前述した<外>の宇宙文明圏から船が訪れる・・・
やたら窮屈で鬱陶しい未来世界は、現代のアメリカ社会の鬱陶しさを象徴的に重ね合わせていると見えなくもない。主人公の恋人に妙に日本風な属性が見られるのは、<外部>への渇望からくるものだろうか。何しろ名前が「ヒカル」で、源氏物語からとられた名である。アメリカ人にとって、日本は象徴的な脱出口のようなものに見えるのかもしれない。
後半の洞窟探検物を思わせるくだりはなかなか読み応えがある。主人公達は地底世界の変異した原始生物や、危険な鉱物群に行く手を阻まれながら真っ暗闇の迷宮を彷徨うのだが、子供の頃、「トム・ソーヤ」から「八つ墓村」に至るまでの迷宮探検的な物語に親しんだ経緯があるので、正直わくわくした。
心理学的な言辞を弄すれば、本書は地底や洞窟といった、胎内的世界からの脱出の物語ともいえる。胎内のイメージは「生」未満であり、「非-生」ということで死と親和性を持つ。懐かしくもおぞましい世界だ。地底という胎内的な世界を通過した後に、地球からの脱出を果たす主人公達には、再生のイメージが刻印されている。要するに生まれ直したいのだ。
脱出後の世界にどのような栄光と挫折が待ち受けているかは、たれにも知るすべはない。だが、人は己の軛から自由になろうとせずにはいられない。私達の社会の困難は、そうした脱出の機会を夢見ることすら許されなくなっていることにあるのではないか。

dasshutsu
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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