時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
サド論のためのプレリュード(3)
(承前)だが、前述の芸術観の持ち主は、「では反倫理的な作品が読者に及ぼす影響についてはどう責任を取るのか」と問うかもしれない。しかし、読者が作品をどう読むかについては読者の精神的姿勢如何にかかっているので、どのような影響を受けるかについても一義的には言えない。道徳的な作品を読んだからといってその道徳を信奉するとは限らないし、反道徳的な作品を読んだからといって、既成の社会秩序を破壊しようとするとは限らないのである。

ここで所謂戦意昂揚文学について少し触れておきたい。まず、その社会的影響についてであるが、これらの文学作品が影響を与え得たのは、社会がそのような受容状態にあったのが原因と指摘できる。次に、これらの作品には、それなりの文学的な評価が成立するということである。最後に、文学と戦争責任についてであるが、この場合あくまでも文学者のとった態度を問題とするわけで、作品論とは切り離した場所で追求されなくてはならない。また、ここでも単に戦意昂揚文学を書いたということが問題なのではなく、何故書いたのか、如何に書いたのかが問われるわけである。吉本隆明は欧米の戦争詩について次のように述べている。
「戦争を賛美するとか戦争に反抗するとかいうことを提起するまえに、極限情況のなかで人間主体がそれに耐えようとする無類の格闘を、それはしめしている。そのような詩には、たとえば、戦争詩一般を悪とするという判断を拒否してくる問題をはらんでいる」(吉本隆明「詩人の戦争責任論」)

以上述べてきたようなことから、私達は次のようなことが言える。すなわち、《倫理》や《有用性》の観念において、文学や芸術作品を規格化することは不毛であること、そして、作家がどのような立場を選ぶかは、それ自体では作品評価には影響しないということである。
サドの作品について論ずるにあたって、私達はこれまで述べてきたことを「前提」として確認することとする。何故このような前提を必要としたかというと、或る種の人間にとっては、サドのような「反道徳的」な作家を問題とすること自体が、既に逸脱だからである。だが、これまで確認した諸原則によって、我々はサドを取り上げることを可能とする道を確保し得た筈である。

以上で序文がほぼ終了する。あとは本編の概要に関する断り書きが少しあるが、ここで引き写しても仕方がないので省略した。
やたら生硬な文章だが、悪影響論に関するくだりは、平たく言えば「作品は良い影響も悪い影響もあたえ得るし、殆ど影響を与えないかもしれない」ということだ。このレベルの危険性を言い立てていたら、日常的な挨拶をはじめとするコミュニケーションすら取れなくなってしまうだろう。この文章を書いている時点では今日のような表現規制騒動は、まだ殆ど目に見える形では現れていなかった。山本直樹が「BLUE」でやられたくらいか。
若書きではあるが、今日に至るも私の基本的な姿勢は変わっていない。それにしても、馬鹿げた言いがかりで低レベルの糾弾ゴッコに打ち興じる連中は、どうしてこうも後を絶たないのだろうか。

A_V

付記:戦意昂揚文学に関するくだりは過去の言及と重複するが、本来この文章において考察したものである。
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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