時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
とりとめのない、漠然とした話
どのような運動体にも、頽廃にいたる契機が存在する。反戦、反差別、反原発、環境問題、その種類を問わず、常に腐敗に至る道筋をそこに見出すことは容易である。昨今の例で言えば、シー・シェパードが行う一連の行動など、こうした頽廃のいい例だろう。
理念の正義が人間的頽廃にいたる過程を、私達は岩明均「寄生獣」に見ることが出来る。書物が手元にないので、記憶を頼りに以下記すこととする。
この作品に登場する広川という男は、倒錯したエコロジストの典型である。彼は人間が万物の霊長として思い上がり、自然を破壊し、他の生物を欲望のままに貪り喰らい、滅亡に追い込むことに義憤を感じている。そこで人間を捕食し続ける寄生生物に肩入れし、上位捕食者としての権利を認めさせようとする。
「人間こそ悪辣な寄生生物である」と断罪する彼の主張は、ナイーブなエコロジストがしばしば口にする台詞と酷似する。だが、作者はここで慎重な姿勢を見せている。広川の死後、寄生生物の一人は「最後までよくわからない男だった」と感想を漏らす。つまり、広川の主張は寄生生物には理解されないものであり、面白がる観察対象でしかない。結局は彼の一人相撲でしかないわけである。
自然保護、動物愛護といった観念は、人間が作り出したものであり、ア・プリオリな真理として外在するものではない。だが、これは必ずしも欠陥を意味しない。あくまでも「人間はある種の約束事の中を生きている」、ということである。私達は人間である以上、人間という種の立場でしか語れない。環境問題をめぐるどんなに高邁な言説も、人間主義の域を出ないのだ。そして、あくまでもその範囲において、その言説の妥当性が問われる。そこを踏まえないエコロジストの言説は、徒に暴走する。極端な場合には人間抹殺のイデオロギーにさえ転落する。何故か。その言説が客観的真理として外在すると信じ込むからである。
繰り返すが、私達はある種の約束事の中を生きている。問題はその約束事がどれだけ多様な立場の人々にとって、妥当なものとして共軛可能であるか、にかかっている。抑圧的なイデオロギーが真理性を僭称し、働きかける時はまず疑ってかかるべきである。その不利益処分は本当に必要だろうか、と。

寄生獣(完全版)(1) (アフタヌーンKCDX (1664))寄生獣(完全版)(1) (アフタヌーンKCDX (1664))
(2003/01/21)
岩明 均

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この記事に対するコメント
興味深い未読作品です
「寄生獣」は興味深い未読作品です。きちんと読んだらモロにハマりそうなので、まだ「とっておいてある」状態です。読まなければ…
最近、非常に難しい問題なのですが「反原発」な運動の人に危険な感じ…を持つ事があります。極めて懲罰的に電力会社や政府を罵る方や、余りに空想的に思われてしまうクリーンエネルギー志向の人…中には「これ位の放射線量でしたら日常生活に問題は無い」と言う専門家を「政府や原子力ムラの手先だろう?!」と決めつけて悪罵を投げつけるばかりの方などに、実は疑問を持ってしまう昨今の自分です。言葉が汚いと正しい意見だとしても受け入れづらい…
勿論、脱・原発は大事な課題だと認識しているのですが、「意見の対立が即、罵り合い」になるのでは運動そのものに暗雲を感じてしまう…難しい問題ですね。
【2012/03/04 23:38】 URL | ふぶら #- [ 編集]


以前にも書きましたが、私が危惧している点はエコロジーに収斂する事、のわーるさんに怒られるかも知れないけどその為私は日本でも結成された「緑の党」については大変懐疑的な立場です。何か匂うんですよね「健康・健全原理主義」を謳う連中と同じ匂いが…。なのでガスタービン発電に切り替える事が急務かと、クルマと同じで低排出、低燃費のハイブリッドタービン機が世界の主流、ましてやその大多数が日本製なんだから、それにシェールガス発電なら少なくとも80年間は持つ事、天然ガス資源は今尚新たにボーリング調査で大量に埋蔵されていることが判明しているのでこれを使わない手は無いと…。その間に今の太陽光発電の発電ワット数増大技術のブラッシュアップ化や世界一有利な条件下にある地熱発電技術の確立を計る事、一方原発の大元であるウラン鉱脈はあと30年弱しか持たない事(日本のメディアは絶対に報道しませんが)ウランが無ければ当然プルトニウムなんて抽出出来ません。高速増殖炉なんて危険なものがあるのは世界にひとつ日本だけ。しかも1日たりとも稼働していない、当然発電ワット数はゼロ。
チェルノブイリの教訓から1ミリシーベルト越えたらアウトとかつてあれだけ喧伝しておきながら、いまさら上限を20ミリシーベルトと言われたらそりゃ不信感持ちますよ。ただし東京都に限って言えば被災地の瓦礫を受け入れるのが「筋」だと思います。繰り返します「東京都だけ」です。だからこそ島田市長のあの発言は論外であると考えます。

従って、今後も断固として「脱・原発」の主張は続けさせて頂きます。どんなに冷笑されようが、どんなにバカにされようがです。

以上が私の「立ち位置」であります。
【2012/03/05 03:04】 URL | ダムド #- [ 編集]

Re: 興味深い未読作品です
>寄生獣
論の性質上、ネタバレになってしまいました。ご容赦下さい(苦笑)

>意見の対立が即、罵り合い
最近、同じ陣営でこれをやってくる人が多いように思います。完全に敵認定してくるような…
【2012/03/06 01:59】 URL | のわーる #- [ 編集]


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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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