時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
嫌だと言っても憎んでやるさ(ネタバレ御免!)
「アジアの純真」の感想を記す。
だいぶ前に、上映が危ぶまれているとニュースで話題になっていた作品。ご記憶の方も多いことだろう。
在日朝鮮人の少女が、拉致問題でヒステリー状態になった日本人に殺害され、双子の妹と主人公が報復に立ち上がるというもの。旧日本軍の製造したイペリットガスを入手した二人は、次々と日本社会にテロルを仕掛けていく。このあたり、若松孝二の「天使の恍惚」や井土紀州の「ラザロ」を髣髴とさせる。「救う会」をモデルにした集会を襲撃するあたり、映画としてのタブーをズカズカ踏み破る、破天荒な無茶振りを発揮する。
当然のように主人公たちの闘いは行き詰りを迎え、警官との争いで、ヒロインは不慮の死を遂げる。ここで物語は一転し、清順ばりの不可思議な幻想空間へと飛翔する。主人公は、冒頭において「見て見ぬ振りをした」自分と真っ向から向き合い、海外に渡り、ゲリラ兵士として世界変革を目指していく。この辺りは足立正生がモデルだろう。
成長を遂げた主人公は、帰国するが、もはや嘗ての自分ではない。「見て見ぬ振り」から決別し、体の悪い老人に当たり前に手を差し伸べる存在となっている。
だが、主人公の帰国の目的は、日本社会に対する闘争を貫徹するためだった。彼は東京タワー上で巨大爆弾を破裂させようと、起爆装置に手をかける。その時、警官に撃たれて死んだはずのヒロインが、「もうやめよう」と制止する。報復の連鎖に終止符を打ち、他者への理解こそ必要だと確認した主人公達。だがその時、ハプニングから起爆装置のスイッチが押されてしまう。
東京は壊滅し、東アジアを起点として世界中で核戦争が始まる様子がブラックユーモアとして描かれ、美しい花が咲く映像が重ねられていく。
このラストの戦争と花のイメージは、主人公達の行き着いた到達点への祝福である(つまりドンパチは花火の隠喩)とも取れるし、同時に「このクソッタレの世の中を許したわけじゃないぞ!」というメッセージとも理解される。どちらも解釈として正解なのだろう。

若松プロのアナーキズムと、清順映画のシュルレアリスムを足したような作風である(こんな事を言うと大和屋作品みたいに思われそうだが、あれとも全く別)。決して器用な出来栄えではなく、荒削りな部分が多い。夜の海面がビニールだとはっきり判るのは何とかして欲しかったと思う。だが、ここにはそんなものをはるかに凌駕するような、圧倒的な凄みがある。「ガツンとくる」のだ。「映画は何でもありだ」という、爽快な風通しのよさを感じさせる、快作だった。
個人的には今年のベスト作品にしてもいいと思う。福間健二の「わたしたちの夏」とどちらを取るか悩むところだが、完成度を考えれば「わたしたち~」、弾け方を考えれば本作となる。いずれも若松プロ出身者の手になる作品なので、この二本を挙げること自体党派性がむき出しと言えそうだが、出来栄えの圧倒性を考えるとこれは致し方ない。
尚、本作には若松孝二御大が特別出演。画面に大写しで登場したときは吹き出した。

スポンサーサイト

テーマ:私が観た映画&DVD - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
死ぬまで生きろ
アジアの純真 

これだけネタバレという事は、それだけのわーるさんがいい意味で興奮しているのかな?。
ヒロイン役の韓英恵の映画デビュー作は、鈴木清順監督作品でしたよね?力のこもった目付きが印象的でしたが、美しく成長しましたね。最近はモデルの仕事も多いとか…。
福間健二の「わたしたちの夏」は西日本のミニシアターからのオファーが結構多いみたいで、心が温まります。 
福間健二による座談会って東京ではやったのでしょうか?中京地区以西では開かれているらしいみたいですけど。

あっ、それから、のわーるさんに度々たしなめられている、私の高齢者批判の件ですけど、のわーるさんが仰る、「刷り込み」による「無意識」という概念について勉強しようと思います。世論調査では高齢者は圧倒的にTPP推進賛成派だそうですから、より一層上記の概念について知らなければとの思いを強くしました。 
ただ、それ以前に私の周りの高齢者達は、TPPという言葉すら知らないので頭が痛いです(笑)。
【2011/10/30 02:52】 URL | ダムド #- [ 編集]

サパタの血
>福間健二
私が上映を知ったのはだいぶ経ってからのことなので、もしかしたらイベントがあったのかもしれません。トークショーは定期的に行っていたようです。
福間健二は「岡山の娘」の公開時、オールナイトを観に行ったことがあります。「急にたどり着いてしまう」「青春伝説序論」「悶絶本番 ぶち込む!!」「女学生ゲリラ」の四本で、詩集も貰いました。足立正生や原将人達を交えてのトークショーもありました。ロビーでヤーラちゃんがチョロチョロ歩いていたのを覚えています。

>TPP
このところ、サパティスタのことを思い出します。日本社会が、彼らのメッセージから何も学んでいないかと思うと、情けない限りです。
【2011/10/31 00:31】 URL | のわーる #- [ 編集]


んー。見たいなー。面白そうですね。
【2011/10/31 01:05】 URL | ないと #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://noir731.blog106.fc2.com/tb.php/658-752a7230
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

のわーる

Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



のわーるのつぶやき



最新記事



カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -



最新コメント



過去記事のアーカイブ



カテゴリ



最新トラックバック



2010年「国際ジュゴン年」



検索フォーム



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QR



RSSリンクの表示



全記事表示リンク

全ての記事を表示する



FC2カウンター