時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
「六号室」と現代
アントン・チェーホフに「六号病室」という作品がある。舞台は精神病院で、主人公はその医師。あるとき彼は、ユニークな開明的主張を披瀝する青年患者に出会い、彼と対話を重ねていく。だが、そうするうちにやがて彼は周囲から奇妙な目で見られるようになり、最終的に「狂人」と看做され、自ら病棟に叩き込まれてしまう。この短編はかなり寓意的な作品であり、19世紀ロシア社会の状況を描いたものとして、古典的な名作となっている。
ところで、この主人公の置かれた状況に覚えは無いだろうか。精神病棟云々ということは抜きにしても、当たり前の事を話している筈が、いつの間にか異常者扱いされてしまっているということは珍しくない。具体的に言おう。「戦争反対」「憲法を守れ」という主張は普遍的に当然のものと、戦後長らく考えられてきた。だが、いまやこれらの主張は「偏向的」であり、犯罪に準ずるものとして扱われつつある。改憲に反対すれば連行され、平和を守ろうとすれば、職務質問を受ける。
ことは公権力との関係に限らない。政権に批判的な言動が奇矯とされ、周囲から気味悪がられることは珍しくはない。信頼していた人が、手のひらを返すようになる。運動を続けていく中で友人を失った人も多いと思う。
そうした中で、自分がどんなに正当な主張をし、輝いているつもりでも、社会の相当数からはまともな人間として見られてはいないんだぜ、という自覚も持ったほうがいい。その困難を自覚しなければ、「我々は伸びている、多くの人々が我々を支持している」と勘違いを続け、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。
3・11以降、至る所でメッキが剥がれている。この社会はわたし達の知る日本社会では、既にない。
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Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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