時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
震災はわが魂に及び~足立正生「断食芸人」を観る
「断食芸人」(監督:足立正生 脚本:足立正生・小野沢稔彦)を観た。2007年の「幽閉者/テロリスト」以来、実に9振りの新作である。このアングラ映画の最前衛にこれだけの期間、無為な時間を過ごさせた映画産業の罪は重い。
「断食芸人」とは、勿論フランツ・カフカの短編小説。日本映画とカフカの関係で言えば、たとえば山村浩二によるアニメーション作品「田舎医者」が存在するが、左程盛んに取り組まれているわけではない。ピンク映画にまで目を向ければ結構ありそうな気もするが、私は詳らかにしない。カフカの短編など、ストーリーなどあってないようなものが多いし、中々手を出しづらいというのもあるだろう。撮るべき人が撮ったというべきだろうか。
ストーリーを簡単に述べよう、舞台は3.11後の日本社会。商店街に現れた一人の男が、そこで断食を始める。やがて街中の人が集まり、この男の行為の目的を問い、ネットに流し、ある者は共感し、ある者は救いを求め、果ては利用しようとするものまで現れる。殆どの登場人物のリアクションが怪しげで胡散臭く、何度も噴き出してしまう。やがて、いかがわしい右翼カルトのような興行団体が乗り出し、てんやわんやの大騒ぎとなる。足立正生お気に入りの「死のう団」までが登場する。このあたりの展開は、挫折した金嬉老映画の構想が生かされており、震災以降の日本社会を戯画化したものである。
結局興行団体がそこを仕切ることになり、銃で武装した軍人姿の監視人が、芸人に密着することになる。彼の断食を抗議行動と捉えるもの、求道精神の表れと捉えるもの、自己顕示のウケ狙いと捉えるもの、解釈は様々である。だが、そこに共通するものは、事件の「消費」である。人々は断食芸人という現象を、ひたすら消費しつくそうとするのだ。ごく少数の人々を除いて。
最後まで残るのは二人の僧侶と、二人の若い男女である。僧侶達は断食芸人が解脱に達し、奇跡を呼び起こすものとして期待する。青年たちは、彼に対する漠然とした共感から、共にそこに居座り、自分自身の一歩を踏み出そうとする。
このうち、若い女の方は地回りのチンピラに輪姦される。男の方は何とかしようとするが、何も出来ない。それでも彼らは断食芸人の前に戻ってくる。「自分探し」などというと、安く陳腐化したことになってしまう。彼らが何らかの過渡期にあることは間違いないのだ。結局男の方は、支配者然とした監視人に反撥を抱き、これを襲撃しようとして撲殺される。女は悲しみにくれながら、彼を屍姦する。この男女の描き方は良い意味で青臭く、「鎖陰」の頃から変わっていない。
やがて祭りは過ぎ去っていく。人々に飽きられ、虫の息となった芸人に、監視人が「何故断食なんかしたんだ」と問いかける。答えはよく知られている通り、「口に合う食べ物が無かったからだ」である。そして、芸人は監視人に「犬だ、お前は犬だよ」と告げる。この台詞は「審判」の「まるで犬だ」を見事に転倒させたものである。芸人は射殺されてしまうが、このひと言は切っ先鋭く突き刺さってきた。これまでひたすら受動的に、なされるがままになっていた男が、最期に至って手袋を裏返すように、関係性を逆転して見せたのである。実に爽快な気分だった。

無意味さに意味を求めるのが莫迦げているのか、無意味として理解したつもりになるのが莫迦げているのか。出来事をひたすら矮小化・陳腐化して嘲笑する者達は唾棄すべき存在だが、確実なことは、断食芸人がそこにいるという事実である。私達に出来るのは、それが自分にとって何を意味するのかを汲み取ることである。少女は彫刻を完成させた。それはまぎれもない創造行為である。私たちは、この息苦しい時代において、何をなしうるのだろうか。

付記:上映後、足立監督と言葉を交わした。トークショーで何度も会っているのだが、話をしたのはこれが初めてである。死のう団のイメージが面白かった旨告げると、実は死のう団には第一次と第二次があって、自分が描いているのは第二次のほうである、第一次のほうもちゃんとやれと言われているのだが、まだ実現に至っていない、との事だった。
次回作を楽しみにしています、と言って別れたのだが、やはりつまらない事情が重なってくるし、制作はなかなか難しいのだろうか。

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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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