時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
独裁者の救済
島田雅彦「虚人の星」の感想を記す。
読了してから期間が経ってしまったため、うろ覚えの感想になるが、容赦願いたい。
本作は日本の首相と、中国のスパイ(日本人)を主人公とした、ポリティカル・フィクションである。スパイの主人公「星新一」(!)は少年期から重度の多重人格を患っており、それぞれの人格を巧みに使い分けることで、かろうじてバランスを保っている。
もう一人の主人公たる首相は典型的なボンボンの世襲政治家(松平定男という名だ)。この男もまた、もうひとつの人格を擁している。この人格(「ドラえもん」と呼ばれる)が過激なタカ派で、好戦的な言動を繰り広げ、国政をどんどんキナ臭い方向に追いやっていき、周囲の閣僚も盛んにそれを後押しする。元の(?)松平の人格でさえも、これを止めようが無く、収拾がつかない。
一方、スパイたる星は日本を挑発し、暴発させることを任務としている。好戦的な気分に煽られ、後先考えずに日本が暴走したところを一挙に叩く、という思惑だ。星はトントン拍子に作戦を成功させ、日本政府中枢に取り入り、首相と近付きになる。だが、やがて首相と自分が腹違いの兄弟であることを知った星は、安倍…もとい、松平首相に対し、救済案を提示する。
星の案を受け入れた首相は、記者会見で大博打に出る。これまでの「ドラえもん」による言動を全て否定し、平和国家として憲法を遵守することを確約し、力強く不戦を誓うのである。
この演説には「チャップリンの独裁者」の影響があると思う。こうあって欲しいという祈りのようなものが込められているのだ。但し、演説の後、「実は夢でした」という可能性を幾分持たせた描写が続くので、安心は出来ない。これを夢に終わらせるかどうかは、現実の私たち自身にかかっている、ということだろう。
現実の首相にはこうした翻意は一切期待できない。だが、不戦の夢、平和国家の夢を実現させるのは、私たち有権者自身だ。そんな想いに対し、開かれた小説である。
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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