時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
与(くみ)するべきは国家ではなく
船戸与一「満州国演義9 残夢の骸」について纏めようとしたのだが、どうもうまくいかない。取り敢えず、書けることだけを記す。
物語は東条英機暗殺計画に始まり、繆斌(みょう ひん)工作、神風(しんぷう)特攻隊、マニラ市街戦、近衛上奏、沖縄戦、原爆投下、ソ連参戦、ポツダム宣言受諾、シベリア抑留、通化事件といった流れで、途轍もなく密度が高い。夥しい情報量に振り回されているようにも見えるが、とにかく船戸は全てをぶち込みたかったのだろう。
終盤に至るにつれて、日本軍の非道ぶりはストーリーの前面から後退し、敗者を待ち受ける惨たらしい末路にスポットを当てているように見える。無論、日本の権力者の愚劣さを描く筆致には容赦が無いが、それと共に、ソ連軍の残忍さや八路軍の狡猾さが強調されているように見える。これはどうしたことか?
おそらく、船戸の主眼は国家そのものの悪を徹底的に抉り出すことにある。由来、国家は民衆に対して徹底的に牙を向くものである。特に敗れたものに対しては容赦が無い。それは連合国にしても同断である。日本を免責するのではない。「よい国家権力など存在しない」という地平が、ここで切り開かれているのである。

物語の内容に触れると、敷島兄弟のうち、高級官吏であった長兄の太郎はシベリアに抑留され、自らの人間性の頽廃に絶望し、自殺。エリート軍人だった三郎は、行き場所を失い、罠だと知りつつも通化事件に参入し、死亡。ただ一人貧乏籤を引き続けた四郎だけが敗戦後に帰国し、広島に立ち寄る所で物語は幕を閉じる。
全ては壮大な無だったのか。その一言で片付けるには、あまりにも夥しい血が流された。この時代を検証することで見えてくるものがある筈である。

満州
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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