時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
人魚随想
人魚の起源について、私は詳らかにはしない。有名どころではギリシア神話のセイレーン辺りが挙げられるだろう。ただし、オデュッセウスの一行を悩ませたのは半人半鳥の怪物であり、人魚とされたのは後世の伝承においてであるという。このセイレーンが英語圏ではサイレンとなるのも周知のとおり。船乗りを歌で惑わすというこのイメージは、ライン川のローレライ伝説にも通じている。
古代中国の「山海経」にも人魚らしき代物が登場する。「氐人国は建木の西にあり、その人となり、人面で魚の身、足がない」といった具合で、なるほど、それらしい挿絵が添えられている。
日本においては八百比丘尼の伝承が代表的で、人魚の肉を食した女性が不老不死となり、各地を放浪するというものである。物語の類型としては、仏典の賓頭廬伝説や、さまよえるユダヤ人などに近いだろう。
アンデルセンの人魚姫は声を失った人魚の悲恋の物語だが、既に多くの人が論じているであろうし、長くなりそうなので割愛する。某リトルマーメイドにも何の興味も関心もないのでここでは触れない。
サブカルチャーになると、枚挙に暇がない。池田敏春監督にはATG映画「人魚伝説」が存在する。これは夫を謀殺された海女が、裏で糸を引いていた原子力産業の利権亡者どもを皆殺しにする痛快な話だが、海女=人魚として、海の精霊としてのイメージが被せられている。
高橋留美子の人魚シリーズは、わが国の人魚伝承を下敷きにした連作で、お読みになった方も多いと思う。私が読んだのはかなり昔なのだが、なかなかしっとりした哀しみを湛えた作品になっていたかと記憶する。そうなると、諸星大二郎のマンガにも触れたいのだが、果てしない迂路に入り込みそうなので、ここではやめておく。
さて、折角なので我らが南方熊楠にもご登場いただこう。南方には「人魚の話」という一文があるが、内容は、人魚と性交した話、アカエイと性交した話、マチナ(海獣の一種)と性交した話と、獣姦話が延々と続く。南方のエロ話好きは有名であるが、本稿も例外ではない。混沌とした、カオス的な性世界をひたすら描いた挙句、儒艮と人魚との類似性を挙げ、古代ギリシア人やアラビア人は、儒艮を見て人魚と思ったのだろうと語る。
儒艮といえば、澁澤龍彦の「高丘親王航海記」にも登場し、ユニークで印象深いキャラクターとなっていたかと記憶する…(やれやれ、またしても切りがなくなりそうだ。残念だがこれも割愛するとしよう)。
PCで閲覧すると、このブログでも儒艮が元気に泳いでいるのがおわかりだろう。このように、儒艮/人魚ひとつとっても、これだけ多くの文化的背景が存在するのであるが、この儒艮の生息地が今、野蛮な公権力の手でおびやかされている。何処の事を言っているのかはお分かりだろう。勿論、問題は儒艮だけではない。愚劣な利害、力関係から、人々の生活環境を暴力的に破壊しようとすることが問題なのだ。日本政府よ、もう止せ、こんなことは。
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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