時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
無名の青年たち
少し前に読了した、ツルゲーネフ「処女地」の感想を記す。
以前にも述べたが、ナロードニキ運動の青年たちの、理想と敗北の話である。題名は、政治運動の影響力のまだ及んでいない地域、政治的に未開拓の地、というくらいの意味だろう。
ストーリーを端的に言うと、理想に破れ、恋に破れ、仲間に裏切られた青年の悲劇である。主人公のネジダーノフは理想の崩壊を承知しつつ、そこにしがみつく他に術はなく、仲間に続き、大衆を強引に煽動しようとして破滅する。
これに対置する形で、ソローミンという登場人物が作者の理想像を体現しているのは事実だろう。彼は穏健なリベラル派として振舞い、主人公たちを支援する。主人公の恋人であるマリアンヌも、徐々に主人公からソローミンに心を移していくのだが、これは、はねっかえりの急進主義に対する堅実な改革派の勝利を表しているのだろう。
だが、このソローミンという男、どうも人間的な厚みに乏しい。正しい、いい男だ、だが、何か人物像が薄っぺらい。理念としての理想的人間像をでっち上げようとすると、書き割り的になるのは理の当然で、ツルゲーネフもその陥穽をまぬかれていなかったといえる。
文学作品を理念のゲームに矮小化することはあまりにも不毛である。ヒロインのマリアンヌの心移りも、理念の勝敗というだけでなく、恋愛悲劇のパターンとして捉えたほうがいいと思う。甲斐性なしのネジダーノフよりも、地に足の付いたソローミンに惹かれていくのは、痛ましいことだが左程不思議ではない。大抵の恋愛悲劇は、彼/彼女を捨てて、つまらない異性のもとに走る場合が多いのだが、それを考えると「ありがち」な話ではある。

一斉摘発を逃れた、活動家マシューリナの心がどのような境地に落ち着いたのかは不明だが、終盤に再登場したときの彼女は悪くなかった。おそらく彼女は理想を捨てきれず、あてどなく彷徨い続けるのだろうが、紋切り型でない、生きた人間の姿がそこにはあったと思う。
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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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