時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
時効なき反権力
若松孝二の訃報。出来事の意味がまるで掌握できない。事実関係は理解しているが、「意味」として掌握できない。昨晩は口惜しさからよく眠れず、今に至るもわけがわからない状態が続いている。さしあたり、思い出話をする。

私が若松孝二の存在を意識し出したのは十年以上前のこと、映画通の上司から「ピンク映画に凄い人がいる」と教わって以来である。その時は若松の名はすぐに忘れてしまったが、ピンクを通じて反権力を描くシネアストの存在は、深く心に刻印された。
やがて足立正生がパレスチナから帰還する。足立の「映画/革命」と題する書物を手にしたとき、再び若松の名が目に飛び込んできた。伝説の「赤-P」がこの二人の共作である事もその際に知った。
ビデオデッキを所持していない私は、若松の作品を見る機会に恵まれなかった。わざわざ亀有あたりに出向くのも大儀に思えた中、時代はDVDに移行した。足立の「女学生ゲリラ」を観た後、若松作品への関心は次第に高まった。そんな中、前述の上司から借り出したのが「天使の恍惚」である。爆弾闘争にひた走る青年達の姿は、当時の私に充分に衝撃を与えたものだった。
「十七歳の風景」が公開されたときは、気にはなっていたものの、劇場に足を運ぶには至らなかった(後にDVDで鑑賞)。だが、次回作が「連合赤軍」であると聞かされれば、黙ってはいられない。私は若松の著作「俺は手を汚す」と「時効なし」を読み耽った。中古でDVDを集めたりもした。
初めて若松に会ったのは、「実録・連合赤軍」の公開直前のイベントである。青山でのトークショーで彼の姿を目にしたとき、俗に言うオーラのようなものをはっきりと感じた。それだけこちらの思い入れが強かったということだろう。
元ヤクザの経歴を持つこの人物は、予想に反して実に穏やかな語り口で私達に接してきた。彼は決してインテリではないが、時折カストロを思わせるような鋭い洞察を見せてくれる。そこが彼の語りの魅力でもあった。結果として、機会があるたびにトークショーに足を運んだものである。丁度その頃山口清一郎が亡くなった事から、私が表現の自由の問題について問うと、「映倫はぶっ潰すべきだと思う。俺は四〇年も映倫と喧嘩してきたんだぞぉ」と誇らしげに語っていた。並々ならぬエネルギーがそこには漂っていた。
その後の彼の旺盛な創作意欲は誰もが知るところである。このブログでもレビューを記した。彼の映画が高評価を得るたびに自分のことのように嬉しく思っていた。次回作に731部隊や原発問題といったテーマを準備していると聞き、楽しみにしていたところである。

繰り返していう。まだ出来事の意味が掌握できていない。私生活で行き詰まりを迎えているさなか、止めを刺すように訪れたのがこのニュースだった。Everything must go.であることは重々承知だが、頭の中の整理がつくまでは当分時間がかかると思う。
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テーマ:映画関連ネタ - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
びっくり
突然すぎたなぁ…としか言えない。
ご冥福を祈ります。

つか、色々大丈夫かい?
寒くなって来たから、身体大切にね。
【2012/10/19 04:57】 URL | ないと #- [ 編集]

早川マップ
肺ガン、前立腺ガンを克服しても事故には勝てなかったか、残念。   

「水のないプール」リアルタイムで憶えています。  
ベルリン映画祭に出品した「壁の中の秘事」が当時(1965年)毎日新聞から「国辱映画」として批判された、と、なりゃ、絶対に観るしかない!!、「初期作品集」DVDレンタルで観れるか、探してみます。  


合掌。
【2012/10/19 22:51】 URL | ダムド #- [ 編集]

情事の履歴書
> 肺ガン、前立腺ガンを克服しても事故には勝てなかったか、残念。   
あと、脳梗塞もありました。自分で救急車を呼んだとか。
  
> ベルリン映画祭に出品した「壁の中の秘事」
あの作品はセル専用の筈なので、レンタルでは出ていないかと思います。
手元に紀伊国屋版がありますが、初見ではしんどかった思い出があります。その後、新藤兼人や大島渚の作品をある程度見た上で、改めて再見したところ、「おお、これは!」と感銘を受けました。テーマがすぐれて現代的なのですね。ある程度、あの手の作風に馴れていないとついていけないかもしれません。

私が好きなのは「犯された白衣」と「テロルの季節」、異色な所では大和屋脚本の「裸の銃弾」というハードボイルド・アクションがあります。
【2012/10/20 00:14】 URL | のわーる #- [ 編集]

Re: びっくり
>ないとさん
ありがとう。この所、「実録・連合赤軍」をまた観直しています。あれは一見の価値があります。
あと、「キャタピラー」についてですが、実際にはああいう状態になった人間を、家に帰すことはないそうです。どこの国でもやはりひた隠しにするようで・・・
【2012/10/20 00:39】 URL | のわーる #- [ 編集]


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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
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