時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
読書録 2017.8.13
・黒史郎「ラブ@メール」 
癒し系の題名とは裏腹な内容で、いわゆるゾンビ・パニック物のバリエーション。作者お気に入りの屈折した性愛も描かれている。最後、無理に解決させる必要は無かったと思うのだが、どうだろうか。

・シャーリィ・ジャクスン「丘の屋敷」 
ホラーと銘打ってあるが、左程怖いわけではない。「ブレア・ウィッチ」的な、ジワジワくる感覚が魅力だと思うが、読む人によっては物足りない思いがするだろう。怪奇小説としては別に間違っているわけではないが。
テーマは居場所を失ったヒロインの悲劇である。社会に居場所を失った主人公が、丘の屋敷という安住の地を見出し、そこも追い出されそうになった時、永久に留まり続けるべく自殺する。しんみりした余韻を残す作品である。

・スティーヴンスン「ジキル博士とハイド氏」
内容は今更言及するまでも無いだろう。有名な怪奇小説である。薬物で体つきまで別人に代わるというのはどうかと思うが、この着想は後述の「透明人間」にも引き継がれているので莫迦にはできないだろう。小説としての力は流石であり、今日でも充分魅力的である。

・H.G.ウェルズ「透明人間」 
これもよく知られた小説だが、原作を読むのは初めてだった。内容は次の通り。透明人間になった科学者が誇大妄想に陥り、世界征服を志し、やがて殺人を犯す。これに対してマスヒステリアに陥った市民が、彼を追い詰め、よってたかってぶち殺してしまう。作者はこの集団狂気を肯定的に描いているので、「何だかなぁ」といった印象ばかりが残った。

・フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」 
平行世界物の先駆となった古典的な作品。事故により、異世界に転移した主人公が、お尋ね者となり、星間戦争に巻き込まれ、元の世界に還る方法を模索する。
ディックの「虚空の眼」のように、あちこち飛ばされるのかと思ったがそういうわけではなかった。最後は元の世界に還るのではなく、主人公の望む世界に転移するのだが、なかなか小気味いい。

・ピエール・カミ「三銃士の息子」 
大デュマの「三銃士」シリーズの二次創作。ダルタニアン、アトス、ポルトスの共通の愛人だった女性から生まれた子供が主人公。アラミスは最後まで生きのびていたから登場させるのは具合が悪かったのか。
カミの奇想天外な悪ふざけはやや抑え気味だが(こう見えても抑え気味なのだよ)、原作がしっかりしているだけに、なかなか読ませる。プランシェの養女をめぐり、この主人公がフランス・スペインを又にかけ、大冒険をするというもの。牛頭の青年が最後に死んでしまうのは、話の収まりがつかなくなったためか。
ちなみにわたしは、「三銃士」シリーズを全巻通読していない。「ブラジュロンヌ子爵」の最初の巻で力尽き、挫折した。あの辺は流石になかなか読めたものではない。王侯貴族の男女関係の泥沼など、何ら興味を惹かれないのだ。ピューリタン革命を扱った、「二十年後」までは素直に読めたのだが。結局面倒臭くなったので、最終巻まですっ飛ばして、銃士たちのその後の顛末を確認した次第である。
尚、「ブラジュロンヌ子爵」の後半は鉄仮面事件を扱っているので、いずれ読んでみたいとは思っている。

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エッフェル塔と幽霊船
ピエール・カミ「エッフェル塔の潜水夫」を読む。
ピエール・カミは、「ルーフォック・オルメス」や「クリク・ロボット」などに示されるように、奇想天外なナンセンスを得意とする人なのだが、「潜水夫」は、うって変わってオーソドックスな冒険小説の体裁をとっている。そのため、ナンセンスを期待した人にとっては物足りない感が無きにしも非ず。邦訳が少ないことから、わが国では本作がカミの代表作のようになってしまっている。しかし、この人の本領はナンセンスにあるので、読んだことのない人はそちらに触れて欲しいと思う。
序盤に主人公らしく振舞っていた少年が、途中から完全に脇役に回ってしまうなど戸惑う点もある。話の辻褄合わせも強引なので、どうせやるならナンセンスに徹したほうが良かった。
そうした欠陥も持つが、中々愉快な冒険小説であることは認めていい。この人にはこんな引き出しもあるのだ。わたしはこの作者をヴィアンになぞらえたことがあるが、今回はシューのような作風に転じたといえる。
作者の全体像を知るためにも、もっと多くの翻訳が出て欲しい。本国でも絶版状態が続いているようなので。

尚、ちくま文庫版の本作は、挿絵が真鍋博(星新一の小説でお馴染みの人だ)、解説は赤川次郎だった。

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のわーる

Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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