時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
この素晴らしき新世界より
地獄の扉が開いた。まさか自分の目の黒いうちに、治安維持法が復活するとは夢にも思わなかった。共謀罪(組織犯罪処罰法改正案)は7月11日に施行されるという。明らかに、濫用することを狙って制定された同法であるが、どこから何をどのように着手していくことになるのか、現段階では予想もできない。ただ遠くない将来に、この社会に手酷い傷を残していくことはうたがいない。
わたしが共謀罪の名を初めて耳にしたのは10年以上前のことである。当初、この法律は「相談罪」と呼ばれていた。相談しただけで罪になるということからそう呼ばれることになったわけだが、この性格は共謀罪と呼ばれるようになってからも何ら変わっていない。
この国の住人がこの法律の危険性に気付く契機は、一切期待できない。仮に莫大な人間が検挙されたとしても「怖い怖い。日本にはこんなにテロリストが住んでいたんだ」、家族、友人が捕まったとしても「テロリストはこんなに身近に潜んでいたのか」と受け止められるだろう。公権力絶対の神話は揺らぐことがない。
私自身、幾度も国会近辺に足を運んだが、反応はきわめて小さく、集まる人々も限定的である。他国ではちょっとした不祥事でも膨大な人数のデモ隊が路上に溢れかえるものだが、この国ではどうだろう。マスメディアの責任は重大とはいえ、それだけで説明できるものではない。

今後、この国の言論・出版情況はどこに向かっていくのか。一例を挙げる。
クジラックスというマンガ家がいる。アダルトコミック界では一定の人気を博している作家で、わたしもその作品はよく知っている。この人物が、警察から呼び出しを受けた。理由は、「性犯罪者が、お前のマンガを読んで真似をした」ということである。
 

県警は今月7日に漫画家を訪ね、作品内容が模倣されないような配慮と、作中の行為が犯罪に当たると注意喚起を促すことなどを要請した。漫画家は「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承したという。県警幹部は「表現の自由との兼ね合いもあり難しいが、社会に与える影響を考慮した。同様のケースがあれば今後も申し入れを検討する」としている。(毎日新聞)

断筆宣言めいた事柄については作家自身によって否認されているようだが、これは決して毎日新聞の「飛ばし」と捉えるべきではない。警察は断筆強要も辞さないことを意識して今回の一件をメディアに公表したと考えるべきなのだ。「こういうものはもう描かせない」という警察権力の意思がそこに込められているのである。後段に「公権力が作品の内容に介入(申し入れ)することは当然」と謳われていることからも、それは決して杞憂ではない。
今回の事態を「朝憲紊乱の惧れがあるものを取り締まる」と置き換えれば、論理構造は明白だろう。クジラックスの一件は共謀罪の成立と決して無関係ではなく、この社会が監視・治安国家化する過程において、露骨に示されたひとつの証左と捉えるべきなのである。

我々に一体何が出来るのか?偽りの希望は提示したくない。出来ることなど何もないのかもしれない。このブログもいつまで続けられるか判らない。
わたしの敬愛する石川淳の描く主人公達は、どん底の状態において、その果てしない絶望を力の湧く源泉として提示した。「黄金傳説」はその典型である。わたし達がそのような「生」を力強く選択できるかどうかはわからないが、今回の敗北を受けとめながら、まずは生きなくてはならない。
生きることである。

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首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



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