時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
赤本妄読録
この間読んでいた書物について記す。どうってことのない赤本ばかりだが、取り敢えず走り書き程度に記録しておこう。
読んだ書物は順に、古野まほろ「天帝のつかわせる御矢」「探偵小説のためのエチュード」「群集リドル」、有栖川有栖「月光ゲーム」、古野まほろ「天帝の愛でたもう孤島」、倉阪鬼一郎「大いなる闇の呼び声」である。

「御矢」は、超特急内で起こった殺人事件を巡るミステリーだが、舞台背景からどうしても「シベリア超特急」を思い出してしまう。勿論、「カーット!」という自称どんでん返しがあるわけではなく、れっきとした本格ミステリーである。
天帝シリーズの二作目で、例によって伝奇小説的な背景が設定されており、そちらが続編においてどのように発展していくのか興味深い。とはいえ、個人的には「セーラー服と黙示録」シリーズの方が好みである。
「探偵小説のためのエチュード」は、陰陽師物とミステリーを組み合わせた異色なシリーズ。清少納言の妄執が現代に災禍を齎すというもので、なかなかユニークな筋立てである。天帝シリーズと同じ世界を舞台にしており、登場人物が一部共通している。
それにしても、「ベルばら」ネタには吹いた。確かにあれは「オール・ヴォワール」になっていたよなぁ。正しくは「オー・ルヴォワール」だし。
「群衆リドル」は、これまでとは毛色の違うミステリー。古野作品の多くには妙なペダントリーが登場するが、こちらはオーソドックスなクローズド・サークル物形式をとっている。その点、物足りなく思われるかもしれないが、充分に読ませるだけの力を持っているので、がっかりするほどのものではない。
尚、裏事情を言えば本作は作者にとって、講談社とのトラブル後、復帰第一作に当たる作品である。あまり冒険する余裕が無かったのだろう。講談社とのトラブルがどうのようなものであったのかは知らない。断筆も考えたというから相当なものだったと思われる。
ところで、古野のペダントリーは小栗蟲太郎の他、笠井潔の矢吹駆シリーズの影響があるのだろう。

有栖川有栖「月光ゲーム」は名作の誉れ高い作品だが、評判ほどに凄いとは思わない。キャンプ場を舞台にした、やはりクローズド・サークル物で、面白いといえば面白いが、それ以上に突き抜けるものはない。とはいえ、登山やキャンプの話自体は嫌いではないので、それなりに楽しんで読んだのだが。

古野まほろ「天帝の愛でたもう孤島」読了。こちらもクローズド・サークル物。孤島の中で生ずる連続殺人事件。かなり大掛かりなトリックがある他、謎のオラショ、隠された秘宝伝説といったガジェットには事欠かず、相変わらず作者の筆致は快調で、江戸川乱歩へのオマージュらしきものも見受けられる(但し、「公爵」令嬢にマルキーズというルビを振っているのは納得しかねる)。
本作はシリーズ三作目であるが、末尾において、主人公の人間関係に深刻な亀裂が生じる。いや、流石にあそこまでピエロを演じさせられたら怒るだろう。次回作以降はどうなるのか?あっさり元サヤに収まっているのか、気になるところである。
アウグスティヌス、マルティヌス、グレゴリウスといった、聖人の名を列挙するべきところで、バルタン、ザラブ、ガッツ、ヒッポリト、テンペラーといった「星人」の名前を挙げてしまう件りには脱力。飛行機の中で読みながら吹き出してしまった。

「大いなる闇の呼び声」。「クトゥルー・ミュートス・ファイル叢書」の最新刊で、邪神の血を引く末裔の親子が人類の存亡を賭けて相争うというもの。邪神を描いた絵画に関する描写はなかなか面白く、魅力的である。だが、ストーリーそのものは少々あっさりし過ぎの感が無いでもない。もう少し捻りがあってもよさそうなものであるが。

IMG_0917.jpg

スポンサーサイト

テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

舌禍狂想曲
政治にまつわる言説が荒れている。政権側としては、「これくらいなら大丈夫だろう」という感覚が麻痺し、誰がどう考えても容認できない水準にまで達してしまったということだろうか。あまりにもレベルが低いので、考えるだけで莫迦莫迦しくなり、嫌気がさしてくる。
だが、こんな状況下でも選挙があれば、自民党が圧勝しそうな気がしないでもない。「他に入れるところが無い」という意見が多いのだが、信頼できる相手がいないのであれば、信頼できない連中を落とすしかない。事はとうの昔に、その段階に来ているのである。
とはいっても、既に手遅れなのかもしれない。国会における圧倒的多数を手にした今、その気さえあれば、数の暴力で何でもやれてしまう状況が生まれている。全国民が反対しようとも、ゴリ押しに次ぐゴリ押しで、全てが決せられることも考えられる。「中国の脅威」を訴える向きも、一般的にはまだまだ根強いのも事実である。
この状況下で、効果的な方法などそうそうあるわけもない。私たちはとにかくジタバタしていくしかないのである。これは無策ではない。もがき続けることは、原初的であるが、普遍的な抵抗の手段である。人間は、勝てる見込みがあるから抵抗するわけではない。黙っていることが出来ないから抵抗が生まれるのである。

テーマ:日々のつれづれ - ジャンル:日記

「こんな国のため命を捨てられるか」
暫くぶりに、制服向上委員会(略称SKi)が話題となっている。イベントで政権批判を行ったことにより、自民党議員が抗議、大和市からの後援を取り消されたということである。表現活動を行うものにとって、公権力との対立は宿命的な事柄ですらあるのだろう。まあ、「いつものSKi」と言ってしまえばそれまでではあるが。
「諸悪の根源」という文言は、私たちの目の前にある、そのままの現状を言い表している。まさに多くの庶民が常日頃思っていることに違いない。それが余程気に食わなかったと見える。この諸悪の根源政党は、自己愛性政治集団というほか無い。この連中にとって、自らは神のごとく偉大な存在であり、全ての人類から例外なく崇め、奉られなくては気が済まないらしい。
異論を持つものは封殺するという姿勢は、「スポンサーに圧力をかける」という発言にも表れている。「偉大なる我々に対し、不敬であるぞ」というわけだ。現人神にでもなったつもりだろうか。今時天皇家ですらこんな血迷ったことは言わないだろう。
この連中は先日、某討論番組への出演をドタキャンしたという。私はこういう口頭での討論ショーに一切価値を置かないが、それにしてもセコい連中だねぇ。権力者が堕ちる所まで堕ちるとは、どういうことなのか、その見本をまざまざと見せ付けてくれている。

テーマ:日々のつれづれ - ジャンル:日記

悪夢のように心地よく~マグリット展の印象
マグリットの作品は、観るものを不安に誘(いざな)う。それは、シニフィアンとシニフィエの関係に、徹底的に揺さぶりをかける。
私がマグリットの名を知ったのは、安孫子素雄のマンガ作品の紹介記事だったろうか。たしか「マグリットの石」と題する作品があった筈である(未読)。ホラー作品を多く物している安孫子のことである。その独特の感性にとって、マグリットは格好の題材となったのだろう。
但し、率直に言うと、マグリットの絵画そのものにはホラーチックな要素はあまりない。先述のマンガの題材となった、空中に浮かぶ石の絵も、澄み切った画風で描かれる。むしろ、「空の鳥」などに見られるように、そこには人を食った遊戯性が渦巻いているといってもいいだろう。にもかかわらず、その作品が不安を与える理由は、その挑発的なタイトルとの関係にあるのだろう。
「これはパイプではない」という一連のシリーズがある(フーコーの論文は未読なので、差し当たり勝手な感想を書き連ねていく)。タブローとして描かれているのは、まぎれも無く一本のパイプである。鑑賞者はここで意味を宙吊りにされる。パイプのタブローによって意味されたシニフィエが、「パイプではない」という文言によって、激しく揺さぶられるのである(ここでシニフィアン/シニフィエ、さらにレファラン(指向対象)との関係を論ずると果ての無い深みにはまるので、詳述はしない)。
同様のことは、「世界大戦」のような作品にも言えることである。こちらの場合は、「顔」を欠落させることによる不安/混乱と、不条理な題名との関係が鑑賞者を慄然とさせる。これは「凌辱」などの作品も同様である。
石の絵に戻ってみよう。この作品群は空中に浮かぶ巨大な大岩を描いたものである。岩は激しく移動するわけでもなく、ただ静かに空中に佇んでいる。岩の上に建築物が描かれたものもある。堅固な質量を持った岩が、当たり前のように空中を浮揚している。それはどこか人間を拒絶し、あざ笑うかのようにさえ見える。空中浮揚ではないが、「ガラスの鍵」もまた、異様な予兆を孕みながら鑑賞者を挑発してやまない。これは、悪夢のような心地よさを内包した神話世界なのだ。
今回の展覧会は、なかなかのボリュームで満足のいくものだった。行列で待たされるのは少々閉口だが、まあ致し方ない。「鳥獣戯画」の時よりはずっとましである。

テーマ:日々のつれづれ - ジャンル:日記



プロフィール

のわーる

Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



のわーるのつぶやき



最新記事



カレンダー

05 | 2015/06 | 07
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -



最新コメント



過去記事のアーカイブ



カテゴリ



最新トラックバック



2010年「国際ジュゴン年」



検索フォーム



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QR



RSSリンクの表示



全記事表示リンク

全ての記事を表示する



FC2カウンター