時を告げない大時計
映画やら書物やらをめぐる、つれづれなる断想など
戦争の亡霊~キングコング 髑髏島の巨神
まず、本作のテーマは「戦争」である。
冒頭の場面は大戦末期。太平洋上の孤島・髑髏島に不時着した日米両兵士が、相手を殺害しようと相争う。そこへキングコングのとてつもない巨躯が現れる。呆然として戦闘を中断する二人。ここのコングは争いの調停者と考えてよい。
ベトナム戦争末期を舞台にした本編では、髑髏島への激しい空爆が展開される。そこで激怒したコングが軍用ヘリを次々と撃墜する。キングコングは、空爆を受けた民衆の怒りそのものの具現化として表象される。カムイ伝の山丈、西遊妖猿伝の無支奇などを重ね合わせてもよい。
米軍兵士たちは冒頭で生き延びた老兵士と合流し、脱出を図る。老兵士は日本兵(故人)と和解し、義兄弟の契りを結んでいる。この二人の関係を同性愛の暗示と捉えても差し支えない。少なくともホモソーシャリティーは存在する。老兵士はコングは島の守り神であると説明し、これと争うことに反対する。
だが、隊長はコングへの復讐の念に取り憑かれる。彼にとってこれは成し遂げ得なかった、ベトナム戦争のけじめなのだ。戦争の呪縛から解き放たれた大戦期の軍人と、いまだに戦争の妄執に囚われ続けるベトナム戦争の軍人が対比的に描かれているのが興味深い。
仲間たちの造反と、島の怪物・スカルクローラーの登場により、隊長の目論見はあと一歩のところで断念を余儀なくされる。物語の終盤はこのスカルクローラーとコングの戦い、それに協力する人間達の姿に当てられる。この一連の場面はダイナミックな戦闘が続き、英雄的自己犠牲に対する辛辣な批判も描かれていて実に見事である。
戦いは自然神たるコングの勝利に終わり、島の平和は無事に救われる。勝利したコングは人間達を見送るように佇み、激しく咆哮する。
ところで、島の怪物・スカルクローラーとは何なのだろうか。わたしはこれを戦争の暗喩と捉えたい。この怪物は、島の全生物の生存をおびやかす敵として描かれる。暴れまわり、暴威をふるい、あらゆる生物を喰らい尽くす。待ち受けているのは絶対的な死と破壊そのものだ。そして、その最終形態が54年版「ゴジラ」であることは言うまでもないだろう。
本作は怪獣映画の姿を借りながら、戦争について色々考察を巡らす事を可能とする。実に愉快な作品だった。

※ 余談だが、本作は一部のファンによって「けものフレンズ」と屢々対比され、「実写版けものフレンズ」とさえ呼称されている。だがこれは決して不当な悪ふざけではない。スカルクローラーをセルリアンとすれば、ほぼ内容は一致する。島(パーク)を脅かす圧倒的な負の力と、これに立ち向かうキングコング(フレンズ)との戦いが、この作品の骨子である。

IMG_4581.jpg

スポンサーサイト

テーマ:最近見た映画 - ジャンル:映画

2016年の映画 私的ベスト&ワースト(完全版)
「映画芸術」のベスト&ワーストを見ていて気がついた。「あー、わたしのベストには断食芸人とFAKEが抜けてるよ」
つい横着を決め込んで、自分のブログも見返さずにランクを決めてしまったのが災いしたか。耄碌するにはまだ早いが、去年印象的だった映画がすっかり抜けてしまうのは情けない。ワーストは不動の「シン・ゴジラ」一点だが、ベストを再度掲げておく。

1位 聲の形
2位 FAKE
3位 断食芸人
3位 マンガをはみだした男 赤塚不二夫
4位 この世界の片隅に
4位 アイアムアヒーロー

それにしても荒井晴彦、「シン・ゴジラ」は嫌いだろうなと思っていたら、案の定「どこが面白いのか分らなかった」と一蹴。「便乗ビジネスには乗らない」とそれ以上は語らなかったが、そこは突っ込んで欲しかった。

今年観た映画は
「傷物語 冷血編」(監督:尾石達也)
「沈黙~サイレンス」(監督:マーチン・スコセッシ)
「アメリカン・スナイパー」(監督:クリント・イーストウッド)
である。体力のある時に、それぞれ感想を記してみたいが、また忘れてしまいそうなので、短くコメントする。
「傷物語」は、三部作の完結編。上質のエンターテインメントとして、なかなか楽しめた。キスショットの屈折した愛情がいい。
「沈黙」は、実は原作未読。遠藤周作は「死海のほとり」「海と毒薬」「白い人」などを読んで、重要な作家として意識していたが、時代小説が苦手なことから、つい読むのが遅れてしまった。映画そのものはずしりと心に響く作品。イッセー尾形による、金子信雄ばりの怪演も見事だ。ただ、最後のシーンは説明的で不要だったと思う。
「アメリカン・スナイパー」は、人によって見方がまるで分かれる映画。わたしが観たところ、米兵の鬼畜ぶりががっつりと描かれていたように思えたが、人によっては「米兵の悪事を正当化している」と見えるらしい。どうも、観る人がそれぞれ何を抱えているかによって、見えるものが異なり、評価が分かれるようだ。その点、R.スコットの「ブラックホーク・ダウン」にも共通するだろう。

テーマ:最近見た映画 - ジャンル:映画

お笑い国策映画は如何
日本政府が明治維新映画の支援を検討しているらしい。やろうとしていることは国策映画そのもので、いかがわしいことこの上ないが、寺山修司あたりが生きていたら、支援を受けた上で自分の作りたいものだけを勝手に作ってしまいそうな気はする。ピンク映画勢からのカウンターも期待したい。
とりあえず、ゴジラとキングギドラが出てくるのなら観に行ってもいいかと思う。巨大ロボットを出すとか、今流行りの全キャラ美少女化してドタバタコメディにするとかならありなんじゃないか。

与太話ついでにホラー物のストーリーを考えてみた。
薩長からゾンビが現れて大パニック。日本中でパンデミックを起こし、遂に江戸も陥落。最後には生き残りが五稜郭に立て籠もり、生存を図るというもの。
ジョークとして考えたのだが。よくよく考えたらかなり正統な社会的寓話になりそうだ。この薩長=ゾンビの映画、誰か実現してくれないか。

テーマ:映画関連ネタ - ジャンル:映画

2016年の映画 私的ベスト&ワースト(不完全版)
年末に映画のベスト・ワーストを挙げていなかったので、ここに記す。
ベスト
1位 聲の形
2位 マンガをはみだした男 赤塚不二夫
3位 この世界の片隅に
3位 アイアムアヒーロー
以下、君の名は。、艦これ、きんモザ等々が続くが、ほぼ同じくらいの順位だ。

「この世界の片隅に」は、戦争期の一人の女性の生き様を丁寧に追った作品で、イエ制度のグロテスクな姿や、戦時下の息苦しさ、空爆の恐怖、愛する者の死等々が描かれ、その中を必死に生き抜こうとする主人公の姿が心を打つ。
一部で「反戦メッセージが無いのがいい」などと言った頓珍漢な評価がなされたが、基本的に日本の反戦映画はこのようにして描かれてきたのであり、この作品もその流れの中にある。「加害責任が描かれていない」というのはごもっともだが、日本の庶民が加害責任を自覚などしなかったのは事実で、このストーリーにそれをネジ込もうとすれば、出来の悪いプロパガンダにしかならない。創作活動は、「正しければいい」というような、甘っちょろいものではない。
尚、本作を「仁義なき戦い」に結びつけるユニークな意見が見られたが、全く正当である。わたしもこれを支持したい。

「艦これ」は出来の悪いTVアニメ版の続編をなした作品である。TV版の出来の悪さはオトナの事情が色々絡んでいるのだろうが、こちらは打って変わって、「見られる」作品に仕上がっている。ストーリーはシリアスに絞り込み、雰囲気をぶち壊すような登場人物は極力排除しているなど、なかなかの本気度が窺われる。
闇落ちした吹雪との対話は、もう少し深く切り込むことも出来たと思うが、「無念の数だけ希望がある」という台詞は悪くない。軍艦が活躍する必要など全くないのだが、せめて人々の記憶に残って欲しいというのは分からないでもない。これ以上踏み込むと、「これは艦これという作品自体のメタフィクショナルな意味を明かしているのでは」という妄想に駆られるので、この辺にしておく。
ただ、話の構造がゲーム設定にまだ捉われているのは事実で、「これは別物」と割り切って、もっと大胆な展開をもってくれば評価は一層上がった筈である。また、多くの人が指摘していることだが、最後のシーンは不要だった。如月の帰還は「これからの希望」として残しておくべきで、分かりきったことをわざわざ説明するのは野暮というものである。そこが残念だった。あと、TV版はこのクオリティで、二時間程度の映画に作り直して欲しい。そちらを決定版にして、あの悪夢を葬り去るべきだろう。

「きんいろモザイク Pretty Days」は、ほのぼのとした小品で、好感が持てる作品である。あまり期待せずに観たのだが、嬉しい誤算だった。
ストーリーは大宮忍をはじめとするレギュラー達の、高校受験を回想する話である。この劇場版の実質的な主人公は小路綾なのだが、彼女は志望校を辞退して友達と一緒の高校に入学する。これは現実的に考えると無茶な話で、このキツい部分を最終的に「自分の選択は正しかったんだ」と纏め上げたのは見事だった。
別の作品で、友人の海外留学を当たり前のように止めてしまうアニメがあったが、人生の重大な決断を安直に扱われたらたまらない。それに見合うような明確な動機付けはやはり必要である。

ワースト
1位 シン・ゴジラ

ワーストははっきりこれを挙げておく。「ヤクザと憲法」はやや期待はずれだったが、ワーストにはあたらない。2016年に観た映画でマイナス評価を下した作品は、この一本のみである。どれだけ絶賛が集まろうと、この薄っぺらさは容認できるものではない。

テーマ:映画関連ネタ - ジャンル:映画

「ま、何とかやってみるよ」
過去にも述べたと思うが、個人的な事情から改まった文章を記す余裕が無い。そのくせツイッターでは与太な呟きを放り込んでいるが、与太話は与太話でしかないので、また次元の異なる事柄である。このブログが与太話の集大成と言われてしまえばそれまでだが。

「君の名は。」の評判に埋もれがちなのだが、「聲の形」はもっと評価されてしかるべき映画である。どちらを選ぶかと言われたら、わたしは俄然これを推す。それだけの価値がある作品である。
テーマは「贖罪」。そして、罪業に苦しむ主人公が、いかにして自分を受け容れるに至ったか。涼しい顔で得意げに糾弾権を振りかざす行為に<正義>などありはしない。登場人物は、誰もが人間的欠陥を持ち、過ちを犯している。そんな少年少女達が激しくぶつかり合いながら、少しずつ成長を遂げていく。
見終わった後も、あれこれと反芻する映画だった。不満を言えば、ED曲が合っていないのが残念だった。OPのMy Generationは絶妙だったが。

IMG_3720.jpg

テーマ:最近見た映画 - ジャンル:映画



プロフィール

のわーる

Author:のわーる
首都圏に生息する一介の映画バカ。といってもまだ映画歴は浅いため、大家の作品をあまり見ていなかったりする。
たまに衝動的におかしな絵を描いたりもする。
尚、この「のわーる」という名前は同名の素晴らしいアニメ作品とは直接関係は無く、サド侯爵の登場人物の名に由来するものである。



のわーるのつぶやき



最新記事



カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -



最新コメント



過去記事のアーカイブ



カテゴリ



最新トラックバック



2010年「国際ジュゴン年」



検索フォーム



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QR



RSSリンクの表示



全記事表示リンク

全ての記事を表示する



FC2カウンター